第4次産業革命が世界中に広がり、さまざまな業界に影響を与え、大きな社会変化を招来しようとしている。IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)、ビッグデータなどの新技術が普及・進化するにつれて、さまざまなものがつながり、融合して、情報社会がさらに高度化しようとしているのだ。このような大きな変革の渦中にあって、日本企業は技術戦略をどのように転換していくべきだろうか。
第4次産業革命は
知財戦略、雇用も変える

第4次産業革命がいよいよ本格化し、産業構造、社会インフラは根幹から大きく変わりつつある。
「300年前に狩猟・農業社会から工業社会が生まれた第1次産業革命、蒸気機関などの動力から電力・モーターへ移行した第2次産業革命を経て、コンピュータが普及し、自動化が進展する第3次産業革命が到来したわけですが、さらに現在は、大量の情報を基に、AIが自律的に考えて最適な行動を取る第4次産業革命の時代に突入しています」と棚橋祐治教授は説明する。「情報革命の渦中ということでは従来と同じですが、第4次産業革命とは、非常に高度で急速な情報革命です。この『高度』をめぐって競争力を確保する時代といってもいいでしょう」
IoT、AIなどの新技術により、取得されるデータ量は急激に増加し、質も高度化、データ処理性能も飛躍的に進化する。いわゆるビッグデータ時代の到来である。データの分析技術、そしてデータそれ自体が、これからの企業競争力の源泉となる。

K.I.T.虎ノ門大学院(金沢工業大学大学院)
イノベーションマネジメント研究科
研究科長
教授、弁護士・弁理士
東京大学法学部卒業後、通商産業省(現経済産業省)入省。大臣官房総務課長、内閣総理大臣秘書官、大臣官房長、産業政策局長を経て、通商産業事務次官を歴任。1990年に不正競争防止法を改正し、営業秘密の保護制度を創設した。また数次にわたり特許法改正を担当し、さらに文部科学省と協同して著作権法の改正に関与した。
「知的財産に対する考え方も根本的に見直さなければなりません。たとえば、知財権の一つである著作権は、人間が作った著作物を権利保護の対象にしています。それでは、自律的に機能するITがすべてを創作した場合、著作権は誰にあって、どう守るのでしょうか。また、自動車の走行記録やスマホの位置情報などのビッグデータも、どこまでを知的財産と定義してデータ権を保護するのか、どうやって不正利用を差し止めるのか、特許法や不正競争防止法の改正を視野に入れ、ビッグデータについてどう考えるかが、喫緊の課題です」と棚橋教授。こうした「権利と保護」を明確にしてこそ、データを有効に利活用して新しいサービス、新しい産業を生み出すことができるのだ。
第4次産業革命では、多様で複雑な非定型業務でも自動化・省力化が可能になるだけでなく、人間とロボットが結びついて、新しい協働をしていくことになる。ビッグデータプロセスが変わり、雇用関係も大きく変わる。
「そこで必要になる人材は、産業構造の変化に合わせて、自分の能力・スキルを向上させていける人材です。グローバル企業の経営戦略を策定したり、ビジネスを企画・立案して、新しいトレンドを創出できる人間も求められます。企業側でも、社員一人ひとりが専門性を身につけ、プロフェッショナルとしての価値を高められるように、育成環境を整えることが、競争力強化の要件となります」と棚橋教授は強調する。
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