ジェフ・ベゾスだけではない
社員一人ひとりがリーダー
岸本:ベゾス氏は、カリスマ・リーダーなのですか。
紣川:「アマゾンのリーダーは誰か」と問われて、ジェフだと言う社員はいません。全員がリーダーだとみんなが信じているからです。ジェフの影響力が大きいことは事実ですが、社員一人ひとりがリーダーなのです。

岸本 義之 氏
(Yoshiyuki Kishimoto)
岸本:考え方の違う人が集まって議論したとしても、OLPを基準にベクトルを合わせることができるということですか。
紣川:イエスとも、ノーとも言えます。OLP基準で採用するので、アマゾンの組織文化に合わない人は入ってきませんが、一方で私たちは多様性をとても重視しています。ですから、違う考え方を持っている人がたくさんいます。そして、議論を大切にする文化ですから、時としてヒートアップすることもあります。しかし、OLPには「Have Backbone; Disagree and commit」という項目もあります。時には信念をもって異議を唱え、ただ、決まったうえは全面的にコミットして前に進むということです。
岸本:それはすごく重要なことですね。ビジネスを進めるうえで正解はどこにもありません。それは議論を通じて、自分たちなりに導き出すしかありませんが、判断の基準や行動の指針を共有していれば、最後は一枚岩になれます。
さて、5つの行動様式の4つめは「成長力を捻出するためにコストを削減する」ですが、OLPには「Frugality」(質素・倹約)という項目もありますね。
紣川:新しいことを始める時には、投資に見合うのかを徹底して検証します。同時に、お客様に提供するサービスをよりよくすることと関係のないコストは、徹底的に倹約します。海外出張する際はみんながエコノミークラスです。会社がどんなに大きくなっても、お金がたくさんあるというイメージはありません(笑)。
岸本:そうしたメリハリをつけることが、まさに重要です。つまり、必要なケイパビリティを構築・獲得するためには大胆な投資を行う一方で、差別化の核となるケイパビリティと関係ない部分には、お金をかけないことです。
アマゾンは成長のために積極的に投資する部分と、倹約すべき部分にはっきりとメリハリをつけていて、それが貫かれている。そういうところを投資家も評価しているのだと思います。
5つの行動様式の最後は、「将来像を自ら作り出す」です。アマゾンは他社の物真似や世の中の流れへの対応ではなく、自ら信じた道を突き進んでいる。競争のルールを自ら作り、Eコマースの世界を引っ張ってきたように思えます。
紣川:ジェフ・ベゾスは、「『今後10年で何が変わるか』という質問よりも、『10年先にも変わらないものは何か』という質問のほうが重要だ」と述べています。それは、時を経ても変わらないものを柱にして事業戦略を立てることができるからです。アマゾンにとってそれは、ミッションであり、「品揃え」「価格」「利便性」という3本の柱です。これらは変わりませんが、製品やサービスの内容は10年前とは大きく変わりました。
将来像はよその誰かが描いたものを追いかけるのではなく、社員一人ひとりがリーダーとして常に考え、提案し、構築して、導入する。それが私たちの日常業務のなかに入っています。将来像は我々が作っている、それを感じることはよくあります。
岸本:本日はどうもありがとうございました。
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