※本稿は「所得不平等の構造」の内容を基に構成されています。

ビジネスモデルが企業の給与水準を左右する

 企業間の給与格差が広がっているようだが、その原因については依然として議論が続いている。格差の一部は、従業員のスキル水準が企業ごとに異なることに起因するのかもしれない。業界による違いもありうる。しかし筆者の経験では、企業の給与水準を最も大きく左右するのはビジネスモデルである。売上総利益、営業経費に占める労働コストの割合、従業員の生産性といった重要指標を決定付けるのは、ビジネスモデルだろう。

 同一業界の企業間でも、高級小売りとディスカウント小売りのようにビジネスモデルが異なる場合があり、それが各社の給与水準に影響を及ぼす。高級小売りは利幅や営業利益が大きいため、一般には高い給料を支払うことができる。半面、利幅の薄いディスカウント小売りでは営業経費全体に占める労働コストの割合は格段に高く、最大で35%にも達する。したがって、生産性を上げない限り、高い給与を支払う体力は一般にはあまり残されていない。