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ビジネスプロセスの改革を成功させる2要因
ビジネスプロセスのマネジメントはいまでこそ、企業活動の一環として当然のように受け入れられている。とはいえ、いまから17年前、私がこのコンセプトをHBR誌上で発表した時[注1]には、その斬新さゆえに喧々諤々の議論を巻き起こしたものだ。それがいまやどうだろう。ビジネスプロセスを軸にした変革運動は、世界中の企業で採用されている。
全社規模でビジネスプロセスを再構築すると、業績が目覚ましく向上し、顧客価値、ひいては株主価値の増大をもたらす。この点については、ほとんどの経営者が納得している。事実、業界や規模を問わず、さまざまな企業が顧客対応プロセスと社内プロセスに焦点を当て、それらを評価したり再構築したりした結果、コスト、品質、スピード、収益性ほか、主要な分野で目覚ましい改善を実現した。
ただし残念ながら、失敗例が後を絶たないのも、また事実である。私は2000年以降、多くの企業が再生を賭けて、ビジネスプロセスの構築や再構築を試みる様子を間近で眺めてきた。
本稿の読みどころ
・全社的にビジネスプロセスを再構築すると、業績が飛躍的に伸びる可能性があるが、そのマネジメントはきわめて難しい。
・徹底した調査を元に新しいフレームワークを設け、有力企業のコンソーシアムによる検証を行った。このフレームワークは、プロセス改革の遂行と進捗把握、さらには問題点の見極めに役立つ。
・PEMM(Process and Enterprise Maturity Model)というこのフレームワークは、5つのプロセス・イネブラーと、プロセスを社内にしっかり根づかせるための、4つの企業ケイパビリティを柱とする。
・PEMMは、各プロセスのあるべき姿を指し示すものではない。このため、全社の標準手法として用いることができ、結果の比較も有意義に行える。
・PEMMは業界を選ばず、どの企業でも活用できる。プロセス改革のどの段階でどうこれを生かすかは、パイオニア企業の実例を見ても、各社各様である。
多くの企業は、不退転の決意の下、大規模投資を決断したにもかかわらず、いっこうに業績を上げられずにいる。首尾よく改革に成功した企業にしても、そこに至るまでの道程はけっして平坦ではなかった。変革プロジェクトはみな、いばらの道を歩くようなものだが、ビジネスプロセスの改革はとりわけ骨が折れる。
一般には、ビジネスプロセスを設計するには、ワーク・フローを整理し直せば、それだけで事足りると考えられているようだ。どのような作業を、だれが、どこで、どのような順序で処理するのかを交通整理すればよいというのである。
しかし実際には、そのような生半可なものではない。新しいビジネスプロセスを円滑に運用するには、職務をより幅広く再定義しなければならない。また、新たに定義された職務を定着させたり、顧客に近い人たちに意思決定の権限を委譲したりするために、研修を充実させる必要もある。あわせて、業績だけでなくプロセスにも重点を置いて、報奨制度を再設計することも欠かせない。
そのうえさらに、チームワーク、各自の責任、顧客志向などを重視する方向へと、組織文化を改める必要もある。マネジャーの役割や責任についても、個々の活動ではなくプロセスを監督するように、そしてまた人材の監督よりも育成を重視するように見直すべきである。ITシステムも、各部門を支援するだけでなく、部門横断的なプロセスを円滑に動かすよう、調整し直さなければならない。
私が調査したところ、大多数の企業の経営者たちが悩んでいた。ビジネスプロセスの秘められた力を解き放つには、いくつもの分野にメスを入れる必要があると気づいていながらも、何を、いつ、どれくらい変えるべきか、確信を抱けずにいたのだ。