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心理コストが新製品を失敗させる
はるか1世紀以上前、思想家ラルフ・ウォルド・エマーソンは「隣人より優れた本を著し、優れた説教をし、優れたネズミ捕りをつくることができれば、たとえ人里離れた森に住んでいようと、その門前に人が集まってくるだろう」と語ったそうだ。イノベーションのマーケティングも、これくらい単純ならば苦労はない。
熾烈な競争が繰り広げられている現在において、新製品を巧みに上市する能力を備えた企業は、そうではない企業よりも大きな成功を収められるだろう。より優れたネズミ捕りを開発しようと、何十億ドルもの資金が投じられるが、結局のところ、消費者に受け入れてもらえないことが多い。
ある研究によると、もちろん分野によって違いはあるが、新製品の失敗率は40~90%にも上るという。この確率は過去25年間、あまり変わっていない。たとえば、アメリカの消費財産業では、毎年3万種類の新商品が世に送り出される。その70~90%は1年を待たずして、店頭から姿を消していく。
これまで存在しなかった製品カテゴリーを生み出したり、従来の製品カテゴリーに革命をもたらしたりする画期的な製品も、同じく苦戦を強いられている。調査によれば、先行者の47%が失敗している。つまり、他社に先駆けて新たな製品カテゴリーを開拓した企業のおよそ半分が撤退を余儀なくされているのだ。
鳴り物入りで登場したものの、期待外れに終わった3つのイノベーションについて検討してみよう。
・ウェブバンは、食品雑貨のオンライン販売事業の立ち上げに10億ドル以上を注ぎ込んだが、期待したほど顧客を呼び込むことができず、2001年7月に破産を申請した。
・〈セグウェイ〉は、アップルのスティーブ・ジョブズやアマゾン・ドットコムのジェフ・ベゾスほか、多くの著名投資家たちの支持を得たにもかかわらず、発売して1年半を経ても販売台数はわずか6000台だった。予想の5万~10万台には、遠く及ばなかった。
・デジタル・ビデオ・レコーダー(DVR)の〈ティーボ〉(観たいテレビ番組を選んで、ハード・ディスク・ドライブに蓄積する製品とサービス)は、1990年代後半から今日に至るまで、専門家からもユーザーからも絶賛されているが、需要は予想より低迷し、2005年までに6億ドルの営業損失を計上している。
イノベーションの失敗が明らかになると、その道のベテランも新米も一様に、「あれは失敗して当然の大間違いだった」と片づけようとする。しかしそれは、あまりに安易な言い訳である。
失敗したイノベーションが本当に見当外れなものだったのであれば、なぜ事前にそれがわからなかったのだろうか。ウェブバンには、小売業の経験者で固められた経営陣、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)から招聘したCEO、ゴールドマン・サックスやヤフーといった投資家たちが揃っていた。にもかかわらず、失敗してしまった。〈セグウェイ〉と〈ティーボ〉については、引き続き動向を追いかける必要があるとはいえ、経営幹部も業界アナリストも読みが甘すぎたことは否めない。