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「ペルソナ」とは何か
ハーバード・ビジネススクール名誉教授のセオドア・レビットはかつて、このように述べた。「実のところ、企業は顧客に、製品やサービスではなく、『誓約』を売っているのである」
まさしく本質を突いた言葉である。とはいえ、いったいだれに誓いを立てればよいのか。産業財を扱うB2B企業ならば、そんなに悩む必要はないかもしれないが、一般大衆を相手にするB2C企業の場合、はっきりした答えを出すのは難しい。
多くのマーケターや製品開発担当者たちが、顧客第一主義、ユーザー中心主義の理念の下、さまざまな試みを繰り返してきた。インタビューやフォーカス・グループ、フィールド・スタディ、消費者パネル調査に顧客満足度調査、電話やウェブを通じたヒアリング、サーバーのログ分析、コール・センターでのダイアローグ分析、ユーザー・テストやβ(ベータ)版評価等々──。
さらには、これらの調査から得られたデータについて、ニーズやウォンツ、類似性や相関性、因果関係などを分析したり、さらには回帰分析や多変量解析、クラスター分析といった手法を駆使したりと徹底的に科学する。もちろん、このような努力はいまなお続いている。
消費者やユーザーを理解することは、マーケティングの基本中の基本であり、多くのB2C企業が怠りなく取り組んでいる。なのに、ユーザビリティ、すなわち機能やデザイン、費用対効果などに優れ、利用者が満足して使える製品を開発するのは難しい。なぜだろう。
真っ先に、その巧拙や習熟度の問題が挙げられるが、本稿の目的はここにない。ただし、あえて一つだけ指摘しておくと──優れたマーケターならば先刻承知していることだろう──「平均は、消費者の本当の姿を反映したものではない」ということだ。間違っているわけではないが、正しいわけでもない。しかし、最終的にその手元に届ける製品やサービスは、平均的なものになってしまうだろう。
真のユーザビリティを実現できない理由はいろいろ考えられるだろうが、最も広範に、そして最も頻繁に見られるのが、消費者やユーザーに関するデータや情報の活用における「ばらつき」である。たとえば、次のような苦労を経験されたことがある方は多いのではなかろうか。
・市場調査やナレッジ・マネジメントを担当する部門が収集したデータの意味が、マーケティングや製造など、これらを利用する部門に正しく伝達されない。その結果、重要なデータが死蔵されてしまうことも多々ある。
・仮に正しく伝達されても、部門ごとに解釈が異なったり、その相違点が共有できなかったりする。その結果、微妙な同床異夢が起こり、次第に温度差が広がっていく。
・「北京でチョウが羽ばたくと、ニューヨークで竜巻が起こる」ではないが、この微妙な同床異夢がプロセスを経ることに広がり、スケジュールが押しているにもかかわらず、部門間で対立が起こったり(時には、営業部門の機嫌を損ね、十分な支援が得られずに失敗してしまうこともある)、部門間の見解の相違を丸く収める折衷案に妥協したりする。
以上のような結果、真のユーザビリティは脇に置かれ、せっかくの新商品も在庫の山と化していく。
商品開発に関わる各部門に共通言語や共通認識が欠けていること、すなわちユーザーやコア顧客の解釈がまちまちであることの問題は、古くて新しい問題である。そのためにクロス・ファンクショナル・チームやシックス・シグマといったツールが脚光を浴びてきたわけだが、なかなかうまくいかない。