2015年に国連で採択された世界的枠組みであるSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は、従来のグローバル資本主義型経済のなかで進化してきた企業経営モデルに、抜本的な変革の必要性を問いかけている。本稿では、SDGsを企業経営の視点から紐解く。
*詳細は『SDGsが問いかける経営の未来』(日本経済新聞出版社)を参考にされたい。

経営モデルに新たな“ビッグバン”が起ころうとしている

 1990年代後半から日本で起こった“金融ビッグバン”は、「連結経営」「キャッシュフロー経営」といった、経営者にとっての経営成果の「モノサシ(捉え方)」を、まさにビッグバンのように大きく変え、企業の経営モデルを根本から変革することを迫った。その結果、たとえば自社の連結利益の増減について株主と対話することは、いまや経営者の日常となった。

藤井 剛
モニター デロイト
ジャパンリーダー/パートナー

デロイトの戦略プラクティス、モニター デロイトのジャパンリーダーであり、Innovation およびCSV/Sustainability Strategy Leaderを兼務。

 SDGsを契機に大きく加速し始めたサステナビリティの潮流は、金融ビッグバンから20年ほどの時を経て、企業経営に新たなビッグバンをもたらし始めている。

 たとえば昨今、石炭火力事業への関与が株主価値に大きな影響を及ぼしている。石炭火力事業を持っていることで、NGOから名指しでバッシングを受けたり、実際にその事業から撤退せざるを得なくなったりした企業が出てきている。また、2018年5月時点で、世界で800の金融機関や機関投資家(資産総額でじつに6兆ドル超)が、石炭火力への投資からの撤退を表明した。

 このような状況に対し、ある日本企業の経営者が筆者に漏らした一言が、現代の経営者の等身大の認識を表している――。「NGOからの指摘は理解できるけれど、利益を生み出しているし、需要もある。そこまでやらなきゃいけないのだろうか?」

 世界のさまざまな社会課題への対応は、SDGsが強力に後押しし、経営者の日常になっていくだろう。すなわち、これまでは会計上の利益が唯一のモノサシであったが、今後は、経済取引の外側で、いわゆる“外部不経済”な状況をもたらしている社会課題への対応度までもが、そのモノサシに加わると捉えるべきだ。モノサシが変われば、企業経営の根本的な仕組みも変化していくのは必然だ。