SDGsは“宝の山”ではない

 企業はSDGsをどのように認識しているのか。日本企業の典型的な捉え方には2種類ある。

 最も多いのは「守り」である。今後強化されうる法令・規制の類や、投資家対応のためのESGに影響を及ぼすものとして認識されている。ここではSDGsは「外部規範」としての顔を持つ。

 いま一方は「攻め」の捉え方だ。日本政府などの積極的なキャンペーンもあり、SDGsは、イノベーションのヒントが埋め込まれた“宝の山”とも言われている。この「攻め」の文脈でよく引用されるのが、世界経済フォーラムの諮問機関「ビジネスと持続可能な開発委員会」が打ち出した、「SDGs達成で年間12兆ドルの事業機会開拓が可能」という試算である。この場合のSDGsは「外部機会」だ。

 しかしこの試算の前提には、以下のような警告が付されていることを見逃してはならない。

 「この(12兆ドルの事業機会の)ために企業は、市場シェアや株価の追求に投じているのと同等のエネルギーを社会と環境のサステナビリティ実現に投入する必要がある」

 「多くの企業がビジネスモデルの変革に踏み出さなければ、不確実性と持続不可能な開発によるコストが増大し、いずれビジネスが不可能な世界が訪れる」

 換言すれば、この報告書は企業に対し、SDGsを「外部規範」「外部機会」という“外発”のものとする見方そのものを戒め、企業の長期的な生存という“内発”の動機に基づくものとすべきであると訴えているのだ。

 これは、3つ目の捉え方として、SDGsを自社の長期経営の「土台」に位置付ける必要があることを示唆している。グローバル資本主義経済のなかで、社会課題を発生・拡散し続けているビジネスモデルを根本から見直し、持続可能なものに内発的に変革していくよう、経営モデル自体を転換することを促しているのだ。

 自社の経営ビジョンや統合報告書などでSDGsを掲げている企業は、この「土台」の変革にまで、暗にコミットしていることにもなる。これに気付いている企業は実際どのくらいあるだろうか。

 モニターグループ(現モニター デロイト)創設者でもあるマイケル E. ポーター教授は、2011年にCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)を論じ、新たな企業価値創造アプローチを提唱した。2014年ごろより日本においても大きく関心を集めてきた(参照:「日本企業はCSVをどのように捉えるべきか」)

 CSVは、それまでCSRの文脈で語られていた「守り」施策の実施を前提としつつ、主に「攻め」、すなわち企業価値創造のための戦略コンセプトと言える(「CSV1.0」)。これがSDGsに後押しされるかたちで、依然としてステークホルダーから問題を指摘されている「守り」や、先に述べた「土台」も含めた、本質的なサステナビリティに向けた経営の軸として、さらなる進化を遂げることが求められているのではないだろうか。

 SDGs時代に求められる新たな経営モデルとは、「攻め」「守り」「土台」を包含したかたちでCSVを実現すること、いわば「CSV2.0」と言えるのだ。