真実の自分に気づく瞬間

 指導者の資質が身についていると気づいたのはいつか。この問いへの答えは、その資質をどのように定義するかによって異なるであろう。ビジョナリーであることか。信念を曲げずに行動する勇気か。また、情熱、直観、謙虚さが関係するのだろうか。

『ハーバード・ビジネス・レビュー』編集部は、さまざまな経歴のビジネス・リーダーたちに、リーダーとして最も重要な資質とは何か、またどのような試練を経験してきたのかについてインタビューした。それらのいずれもが、我々の予想を超える物語だった。

 企業が直面したトラブル、あるいは成功に、リーダーの経験が大きく関係していることは想像にかたくない。

 たとえば、リコール事件や委任状争奪戦(プロキシー・ファイト)など、守りを固めなければならない時にあっては、指導者としての器が問われるのは言うまでもない。同様に、イノベーションや事業の選択と集中に取り組んでいる場合も、リーダー自身のキャリアに大きく左右されることだろう。

 このような状況こそ、リーダーの真実の姿が明らかになる。ただし、ここで描かれているように、リーダーがおのれの真実の姿に気づく瞬間とは、あまり語られることのないものである。

 

【Humility(謙虚)】
おのれをわきまえる

オリペッカ・カラスブオ(Olli-Pekka Kallasvuo)
ノキア社長兼CEO

 1990年、私は36歳の時、ノキアのCFOに任命されました。これは私にとっても、会社にとっても大きなチャレンジでした。私の若さだけがその理由ではありません。当時のノキアは、同社の歴史において類を見ない激動のさなかにあったからです。

 すでにノキアは大企業になっていましたが、深刻な財政状態にありました。何しろ、毎月「来月の給与を支払えるだろうか」と心配するくらいでした。

 また、いまだから言えるのかもしれませんが、自分がいかに経験不足だったかということです。私は法務部門と戦略部門の出身で、経理や財務の経験はありませんでした。売上げが落ち込むにつれて銀行からの信用も失われ、何とか融資を確保しようと、チューリッヒ、フランクフルト、東京、ロンドンなどへ頻繁に出張しました。