
新たなSNSが生まれては消えていく厳しい競争環境において、中国IT企業大手テンセントが開発したウィーチャット(WeChat)は一大プラットフォームに成長した。フェイスブックやグーグルを排除する、中国特有のビジネス環境がその成功要因だという見方も根強いが、それだけではない。創設者のアレン・ジャンが、デザイン思考とは大きく異なるイノベーション手法の「グランドデザイン」を実践したことが、同サービスの急成長を牽引したと筆者らは主張する。
中国では、メッセージアプリのウィーチャット(WeChat。微信)は人々の日常生活を支配している。1日のアクティブユーザー数は10億人を超え、ソーシャルネットワーキングとチャットを行うデフォルト機能となっている。ユーザーが送信するメッセージ数は、1日延べ450億件以上だ。
モバイル決済でも最大手であり、ウィーチャットペイのユーザーは8億人を超える。そして将来有望な中国人ユーザー層に向け、配車、レストラン、映画の予約、販売アプリ等々を含む総合的サービスを、すべて同じプラットフォーム内で提供している。
ウィーチャットのような成功している中国ソフトウェア事業に対し、多くの欧米人は懐疑的だ。その成功は模倣戦略によるものであり、フェイスブックとグーグルが国から締め出されていることで恩恵を得ているのだろう、という見方が存在する。
しかしウィーチャットは、ここまで楽に進んできたわけではない。リリース時には、国内の何十もの競合相手を押しのけなくてはならず、先頭を走り続けるためには、絶えざるイノベーションを余儀なくされた。多くの識者の評価では、今日のウィーチャットは欧米の同類SNS(ワッツアップなど)よりも卓越したユーザー体験を提供し、いまやその革新的な機能が他社に真似されているという。
筆者らは先頃、ウィーチャットについて綿密な研究を行うために、創設者のアレン・ジャン(張小龍)を含む15人の幹部らに独占インタビューを実施した。その結果わかったのは、ウィーチャットは単なるチャイニーズ・サクセスストーリーではなく、世界中のイノベーターにヒントを与えてくれるということである。