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達成動機がマイナスに働く時
ビジネスの世界では、優れた功績を上げたいという思いは強さの源泉であり、これは経営者や管理者にも、彼ら彼女らが率いる組織にも等しく当てはまる。この思いから情熱やエネルギーが引き出され、成長の勢いが増し、長期にわたって高業績が保たれる。このような思い、すなわち「達成動機」は強まる傾向にある。
我々は過去35年間、経営者や管理者たちのモチベーションを研究してきたが、この10年間、達成動機を主たるモチベーションとする人たちが着実に増えている。このおかげで、会社も恩恵に浴してきた。生産性が右肩上がりのほか、年間の特許取得数が激増するなどイノベーションが盛んになっている。
短期的に見れば、やる気に満ちあふれ、脇目も振らずに仕事に邁進するやり手マネジャーは、輝かしい業績を実現するかもしれない。しかし、達成動機は負の部分を持ち合わせている。目標や課題、たとえば利益目標や売上目標しか目に入らないと、個人、企業とも、長い間にはかえって業績を悪化させてしまう。
並外れた業績を上げる人物は、コーチングやコラボレーションに力を入れるよりも、むしろ命令や強制に訴える傾向が色濃いため、部下たちの息が詰まる。そうなると、部下たちはえてして手っ取り早く業績を上げようと、大切な情報を伝えず、周囲の懸念にも気づかないおそれがある。こうしてチーム全体のパフォーマンスが低下し、肝心の目標に手が届かなくなる。
業績ばかりに血眼になると、職場内に猜疑心が生まれ、士気の低下を招く。生産性の低下も数字に表れるほどになり、社内外で経営陣への信頼が揺らいでいく。過去10年間を振り返れば、たしかに利益が増え、イノベーションも活発になった。とはいえ、世間における大企業への視線は厳しくなる一方である。
我々は企業幹部を対象にコーチングを提供しているが、たぐい稀な才能に恵まれた経営幹部が、自分と部下にプレッシャーをかけ続け、その挙げ句に、自滅していくさまを目のあたりにしてきた。
その極端な例が、エンロンの元CEOジェフリー・スキリングである。彼は手段を選ばず結果を追い求め、およそあらゆる面で凄まじいほどの成果を実現させた。マネジャー同士を競わせ、ある時など、以前に自分が禁止したサービスを隠れて開発した部下を「よくやった」と絶賛したほどである。
スキリングのように新聞の見出しに名前が躍らないまでも、やり手マネジャーのなかには、とんでもない害悪をまき散らす人が少なくない。ある大手エレクトロニクス・メーカーのCEO、フランクの例を紹介しよう。
鼻っ柱が強く、ひたすら結果だけを追いかける彼は、他の経営陣に服従を強制した。高飛車な態度で無理難題を吹っかけ、もちろん周囲の声に耳を傾けることはなかった。4年も経たないうちに社内が混乱に陥り、複数の経営陣が辞任をほのめかした。そして、ついにフランクは更迭された。
会社を追われないまでも、近視眼的に業績ばかり追求していると、出世の道をみずから閉ざしてしまうはめにもなりかねない。頭脳明晰な弁護士ジャンは、ニューヨークの法律事務所でパートナーを務め、次期代表の有力候補と目されていた。しかし彼女には懐の深さが欠けていた。自分と同じように一心不乱に仕事に取り組んでいない部下には我慢がならず、相手をおとしめる言動もしょっちゅうという振る舞いだった。そのせいで、若手が次々と辞表を叩きつけるという、前代未聞の騒動となった。