人々に『はたらく』を自分のものにする力を」というミッションを制定したパーソルキャリアの協力で実現した、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授の前野隆司氏と、早稲田大学大学院・ビジネススクール教授の入山章栄氏の対談の後編は、ポストコロナ時代の真の「働き方改革」とは何か、そして、デジタル・ディスラプション(創造的破壊)の時代における創造的な働き方とはどのようなものかといった点にも話が及んだ。

ロート製薬が副業を認めたのは
社員に真の自立性を持たせるため

――幸せの4つの因子(「やってみよう因子」「ありがとう因子」「なんとかなる因子」「ありのままに因子」)を高める方法はあるのでしょうか。

前野 悩ましい問いですね。なぜなら、幸せになろうと思う人は幸せじゃないという研究結果があります。むしろ、幸せになることを忘れているぐらいのほうが幸せなんです。

 4つの因子を意識して高めようとしているようでは、幸せになれない。健康診断と同じで時々測定して、後から気づけば「前により幸せになったかな」という感じでいいのです。

 例えば、「ありのままに因子」が低いから、それを高めるために自分探しばかりしていたら、かえって見つからない。難しいですが、目指すべき目標だけれども、目指してはいけない。

入山 面白いですね。幸福は目的でもありますが、目的化すると達成できない。結果なんでしょうか。やりたいことをやった結果得られる。気づいたら幸せだった....という。

前野 結果であり、原因でもある。幸せな心をつくると、セルフマネジメントできていい状態になり、その結果、パフォーマンスも成果も上がる。

――従業員の幸せを高めようとしている日本企業の取り組みをご存じでしたら、教えてください。

入山 私が社外取締役を務めるロート製薬で興味深い話があります。同社は、大企業の中では最初に副業を解禁した会社として知られています。同社の特徴は、社外での副業に限らず、社内の副業も認めていることです。例えば、本業が営業職だとして、副業として人事や企画、広報などの仕事をすることもできる。

早稲田大学大学院
ビジネススクール教授
入山章栄
Iriyama Akie
慶應義塾大学経済学部卒業。三菱総合研究所を経て、米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.Dを取得。米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール アシスタントプロフェッサー、早稲田大学大学院ビジネススクール准教授を経て、現職。著書に『世界の経営学者はいま何を考えているか』(英知出版、2012年)、『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(日経BP社、2015年)、『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社、2019年)。

 そこで面白いのは、社員は「好きな副業をしていい」と言われると、自分が何をしたいかを本気で考えるのだそうです。社外副業はハードルが高いけど、社内副業は勝手もわかっているので取り組みやすい。やりたいことも見えやすいから、「自分が本当にやりたいことは何か」と考えるようになる、と。

 私の考えでは、「働き方改革」はどうすれば楽しく幸せに働けるかを自分で考えることに尽きると思います。これまでの日本企業ではそれを社員に考えさせる機会が少なかったのですが、ロート製薬ではこうした取り組みで、社員に真の自立性を持たせようとしています。

前野 収入を増やしたいと思って副業する人はいないのですか。

入山 それが、あまりいないようなんですよ。ロート製薬の制度を利用して、ユニークな副業をしている女性がいるのですが、彼女がやっているのは日本酒バーのおかみです。彼女は宮城県出身で、東日本大震災で東北が大変な被害を受けたときに、東京で勤務していたために十分に貢献できなかった。その心残りがあるから、東京で日本酒バーのおかみをやって、宮城の日本酒を紹介しているんです。故郷に貢献できるだけでなく、自分もハッピーになり、結果としてその経験や人脈が本業にもプラスになる。