幸せであることと、
創造性やイノベーションは相関が高い

前野 「ありがとう因子」で説明したように、人間は感謝するほど幸せになります。利己的でいるより、利他的なほうが幸せなんです。自分のやりたい趣味もいいけど、社会に役立つ取り組みをして、周囲と感謝し合うような関係性を築いたほうが幸福度は高い。

入山 なるほど。感謝の話で言うと、特に大企業に顕著ですが、もしかしたら働いている最中に「ありがとう」と言われる機会が減ったのも、幸福度が高まらない一因かもしれません。管理色の強い企業だと、できて当たり前で、ミスしたら叱られる。

前野 大企業はバブル経済が崩壊した後、合理化を徹底して、従業員同士や顧客との重要なコミュニケーションを省いてしまった。その反省もあり、例えば、ヤマト運輸は、顧客の感謝の言葉を社内で共有する取り組みを行っています。配達員が聞いた感謝の言葉をシェアすることでみんなの幸福度が高まる。

 顧客のクレームを社内で共有し、サービス改善につなげる取り組みも大事だけど、それと同じくらいポジティブな情報をシェアする活動も大事です。こうした感謝や気配り、思いやりといった日本人の利他の精神は、周囲も自分も幸せにする特効薬だと思います。

――入山先生の著書『世界標準の経営理論』で、他人の視点に立ち、他人に貢献することにモチベーションを見いだす「プロソーシャル・モチベーション」について解説されていますが、個人主義の欧米でも利他の精神が見直されているのでしょうか。

入山 欧米人にとって利他や共感はあまりなかった概念なので、実は注目を浴びています。日本人が考える利他とは少し異なりますが。

前野 日本人には体に染み付いた利他の精神がありますね。欧米は、相手に利他的に接すると、後で自分に返ってくるという「ギブ・アンド・テイク」の考え方が根強いですね。やはり、個人主義がベースにある。日本で言う利他はそれとは異なって、自分は周囲とのつながりの中で存在しているから当然、人を気遣う、役に立ちたいと考えるといった感じですね。

――幸せだと創造性が3倍になるというお話がありました。昨今は、日本人は創造性に欠けており、だからイノベーションが起きにくいとの指摘があります。幸福度を高めることで改善できるのでしょうか。

入山 クリエイター向けのソフトウエアで知られる米アドビが、2016年に行ったクリエイティビティーに関する世界的な意識調査(「State of Create:2016」)によると、世界で一番クリエイティブな国は日本だという結果が出ています。

 クリエイティビティーの定義にもよりますが、アニメや京都に代表される日本文化など、日本人はその創造性をもっと誇ってもいいかもしれない。日本人は創造性に欠けているという意識は、自己評価の低さに起因しているところも大きいと思います。