日本人は自己評価が低いから
イノベーションを起こせない

前野 国連の「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク」(SDSN)が実施した調査「World Happiness Report 2019」で、世界各国の人々に自分の幸福度を問うたところ、日本は先進国中最下位の58位でした。しかも、15年以降、年々順位が下がっていて、19年は過去最低。自己評価が低いんですね。

 幸せであることと、創造性やイノベーションは相関が高いんです。僕はイノベーション研究もしているのですが、幸福度と革新性は条件が近いんですよ。幸せだと、多様な人と付き合いがあり、自分の軸を持って、新しいことにチャレンジするなど条件がほぼ一緒なんです。

 つまり、日本人は本当はクリエイティブで、イノベーションを起こせるのに、自己評価が低いためにできないでいる。意識を少し変えるだけでいいのです。

慶應義塾大学大学院
システムデザイン・マネジメント研究科教授
前野隆司
Maeno Takashi
東京工業大学大学院修士課程修了。キヤノン、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、ハーバード大学訪問教授などを経て、現職。慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長を兼務。博士(工学)。著書に『幸せのメカニズム』(講談社現代新書、2013年)、『幸福学×経営学』(内外出版社、2018年)、『幸せな職場の経営学』(小学館、2019年)など。

――意識を変えるにはどうすればいいでしょうか。

入山 コンテクストを言語化する作業が重要ですね。抽象的な概念なので、言語化の接続詞みたいなものがあるといい。

前野 言語化に至るステップとして、まずは認知バイアスを取り払い、無意識を理解したり、意識化したりする作業が必要です。いまは、利他的になると幸せになれるという認知がないために利己的になっているのです。

 昔の日本社会では、家族や近所の人々のためにお金を出し合って使うなど、助け合いの文化があった。助け合えば幸せになることが無意識の底に沈んでいると思います。昔の日本にあった良いものを再発見するべきです。

 イノベーションを起こす方法として知られるデザイン思考も、米国の研究者に聞くと、日本の「ワイガヤ」(集団的議論から本質を突き詰め、イノベーションを生み出す手法)を体系化しただけだと言っていました。その意味では、先ほどのプロソーシャル・モチベーションやデザイン思考など、日本に源流を持つものがたくさんあります。