新型コロナウイルスの感染拡大で、ヘルスケアの社会課題としての重要性があらためてクローズアップされている。しかし、ヘルスケア領域は企業にとって従来から重要な新規事業創出のターゲットであった。デンマークにおいて産官学民連携によるヘルスケアイノベーションをリードしているPublic Intelligence(パブリックインテリジェンス)のピーター・ユリウス氏、エスベン・グロンデル氏の2人と、モニター デロイトの波江野 武氏が、社会課題に関する事業創出の進め方について議論した。

民間企業と公的機関が学びあう
デンマークのヘルスケア

波江野 まずPublic Intelligenceという会社について、簡単に説明していただけますか。

ユリウス Public Intelligenceは2007年に設立された、ヘルスケアに特化したコンサルティング会社です。デンマークでヘルスケアサービスを提供している自治体と数多くの仕事をしてきました。ヘルスケアの中でも、特に高齢者福祉や健康促進、健康維持といった領域で卓越したケイパビリティーを持っていると自負しています。

 自治体がテクノロジーを活用してヘルスケアサービスの業務改善を進めるプロジェクトに数多く関わる中で、国内外のテクノロジー企業との関係が深まり、テクノロジーの目利きに関するケイパビリティーも獲得していきました。

 現在では、自治体だけでなく民間企業も弊社の主要クライアントとなっています。我々が持っている自治体とのネットワークを活用して、製品やサービスのテストなどを共同で行うようになったのです。

 日本企業とも4~5年前くらいから付き合いが始まり、日本のある大手企業が開発したIoT関連のデバイスがヘルスケア領域でどういった価値を生み出せるかをテーマとして、デンマークでテストを行うことも決まっています。

 そうした活動を通じて日本との縁が深まり、2019年4月に正式に日本支社を立ち上げました。デンマーク以外では初めての海外拠点です。

波江野 ヘルスケア・公衆衛生は、社会課題としてとても重要な領域であると同時に、デンマークはもとより世界中で日々多くのイノベーションが起こっている領域です。昨今、社会課題への取り組みの戦略的重要性が認識されつつある中、多くの企業にとってヘルスケアは新規事業創出を検討すべき領域ともなっています。

 御社では、もともとそうした社会的意義というものを強く意識しながら、イノベーションを支援する事業を展開されてきたのでしょうか。

ピーター・ユリウス
Peter Julius
Public Intelligence
創業者/パートナー

ユリウス 私たちが目指しているのは、デンマークのヘルスケアの質を高めることです。低価格で高いレベルのヘルスケアサービスをどうやって市民に提供できるのか、それが福祉国家デンマークの大きな課題です。そこに民間企業として、私たちがどう貢献できるかが、ミッションだと思っています。

 さらには、デンマークで構築した低価格で質の高いヘルスケアサービスをパッケージ化して、海外でも貢献していきたいと考えています。

波江野 国・地域全体のヘルスケアサービスのレベルを高く保つことやその向上に取り組むことは、そこに住む人にとってとても大事なことだと思います。

 ヘルスケアというのは中央政府、自治体、医療機関、民間企業など多くの人が関わってサービスが提供されています。そして、病気にならないこと、病気を見つけて治すこと、衰えがあっても幸せに生きていくことなど、さまざまな切り口のサービスがあり、想像以上に複雑であると言えます。

 ですから、大義に向かって行政、医療機関、企業などが立場の違いを理解しながら、全体最適のためにいかに協調するかが、住民を含む各者にとって重要になりますね。

グロンデル その通りです。過去を振り返ると、デンマークでは1980〜90年代は、公的機関と民間企業はお互い別世界の扱いをされていましたが、2000年代に入ると公的機関が特にデジタルテクノロジー活用の点で民間企業に学ぶべきだといわれてきました。そしていまは、個人情報を含むビッグデータを民間が扱うようになってきましたから、倫理的な面などで民間企業が公的機関から学ぶべきことが増える時代になっていると思います。

 日本ではさまざまな面で民間企業が社会を大きくドライブしていると言っていいと思うのですが、いまの時代は公的機関が主にドライブしているデンマークをよく知る価値があるのではないでしょうか。