形だけのイノベーションにしないために

波江野 おっしゃる通りだと思います。私たちはよく「End to End」という言葉を使うのですが、最初の構想から、具体化な施策や製品・サービスの開発、そして社会実装まで、一貫して成し遂げないと社会に対してインパクトのある成果にはつながりません。

 1つ目のポイントとして挙げられた、戦略を十分に共有してくれないという点については、共有したくないわけではなくて、戦略、少しかみ砕いていえば企業として何をしたいのか、市場・社会で持続的に必要とされると信じているか、その考えが合理的かといった点が、十分に言語化されていないのかもしれないですね。

 社会が日々変化する中で、ベースとなる市場・規制・技術を含むナレッジや、複雑なヘルスケアの全体像が見えていないケースもあると感じます。そういったことをしっかり突き詰めておけば、御社のような会社とプロジェクトを進めるときによいインプットができ、結果、連携がスムーズになるはずです。

 もう1つのポイントである完成後の社会実装については、当然のことながら最も投資が必要になりますし、外部パートナーとの連携も含め、不確実性が大きいフェーズですから、トップをはじめとした経営陣が自信を持って、しっかりコミットしていくことが必要ですね。

ユリウス まさしくそうですね。自信というのは社会実装の前になって突然出てくるものではなく、開発段階の努力から生まれるものだと私たちは信じています。

 それから、いきなり大規模に展開するのではなく、スモールスタートでスモールサクセスを重ねていく。これも自信を持つために重要なポイントです。

波江野 日本企業が海外で社会課題の解決に貢献し、そこから経済価値を生み出していくうえでは、現地の実態を知ることが大事であり、それを可能にするケイパビリティーをもった企業と、しっかりとしたパートナーシップを築けるかどうかが、大きな鍵になると思います。

 ところで、御社が特に留意したり、こだわったりしていることはどういった点でしょうか。

グロンデル デンマークは小さな国なので、リビングラボでプロジェクトを進める際のキーパーソンとつながることが容易だという点は、先ほど申し上げた通りです。そういうつながりやすさも特徴なのですが、私たちが関わるプロジェクトで最も特徴的なのは、弊社がリビングラボを主導しているという点です。

 一般的に、リビングラボの運営者は大学であることが多いんですね。それは、中立的な立場で運営できるからです。ただ、民間企業が関わるプロジェクトの場合は、開発のコストパフォーマンスが問われますし、デッドライン(締め切り)を守ることも非常に重要です。

 そういう点に十分配慮しながら、プロジェクト全体をマネジメントするのは、大学は必ずしも得意ではありません。ですから、弊社が関わるプロジェクトでは、私たち自身がプロジェクトマネジメントを行っています。

 弊社がプロジェクトマネジメントを主導できるのは、国としての背景もあります。デンマークでは権威ある大学教授や高級官僚であっても、リビングラボの参加メンバーとはフラットな立場で会話できるのです。ですから、私たちとしてもプロジェクトマネジメントをやりやすいということは言えます。

波江野 確かに、一定のコストでよりよいアウトカム(成果)を出したり、クオリティーを上げるといった目的を達成するためには、立場を越えてさまざまな視点から、合意形成する場をつくっていくことが必要ですね。実態をよく知った人が客観的な情報を基に大義に向かってぶれずに考え、正しいことを正しい、正しくないことを正しくないと、フェアに議論することが大切です。

ユリウス 私たちは、日本でもそのような場をつくっていきたいと思っています。

もともと弊社は、日本とデンマーク市場との親和性を感じており、日本のマーケットに対して大きな期待を持っています。そして、日本企業との実績が多数生まれつつあります。しかし、Public Intelligenceが日本に支社を置いても、どれだけ頑張って日本語を勉強してみても、やはり日本の会社にはなれません。

 ですから、今後弊社として取り組みたいのが、日本の文脈を理解している御社のような会社とケースに応じて連携することによって、デンマークで開発したプロジェクトマネジメントのメソドロジーをどうやって日本の文脈に落とし込んでいくかということを一緒に考えることです。

 それができれば、デンマークからヒントを得て日本でヘルスケア関連のイノベーションを共創し、それをさらにまた海外に還流させていくというポジティブなサイクルを構築できると思うのです。