企業の人事制度には「評価」がつきものだ。パフォーマンスやポテンシャル、あるいは自社に必要なコンピテンシーに照らして、上司や同僚、部下が下した結果で昇給や昇進が決まっていく。だが、人が他人を正しく評価できるという前提が間違っていたとしたら、どうだろうか。過去15年間の研究結果から、他人を評価する能力を損なう、評価者特有のパターンがあることが明らかになっている。人事制度の根幹を揺るがすこの事実を、どう考えればよいのか。


 あなたは評価者として、自分がどのくらい優れていると思っているだろうか。

 私の上司として、1年間にわたって私のパフォーマンスを見ていたとしたら、私の「昇進可能性」や「ポテンシャル」といった特性を、どれくらい正確に評価できるだろうか。「顧客志向」や「学習機敏性」といった、より具体的な特性についてはどうだろうか。

 十分な観察時間があれば、私のパフォーマンスに関するこれらの特性について、1から5の尺度で信頼性のある評価ができるだろうか。同僚や部下、上司など、あなたの周りの人々はどうだろうか。彼らも十分な研修を受ければ、あなたについて信頼性のある評価ができると思うだろうか。

 これらは非常に重要な質問である。なぜなら、大多数の企業はどの質問に対しても、答えは「イエス」であるという前提で運営されているからだ。時間をかけて十分な研修を積めば、人は他人について信頼性のある評価ができるようになるという前提である。

 これまでの人事制度は、こうした前提の上に構築されてきた。上司があなたの「ポテンシャル」を評価し、その評価を「パフォーマンス×ポテンシャル」のマトリクスに当てはめる「9ブロック」といった仕組みは、あなたの「ポテンシャル」の尺度として、上司の評価が有効であるという前提の上に成り立っている。

 そして、あなたに対する評価と、同じ上司(あるいは他のマネジャー)があなたの同僚に対して下した評価との比較で、どちらを昇進させるべきかが決まる。

 同じように、パフォーマンス評価の一環として、上司は企業の求めるコンピテンシーに照らして、あなたを評価する。その評価によって、あなたの実際のコンピテンシーが高い確度で明らかになると信じているからである。そして、上司が特定したコンピテンシーのギャップが、あなたの次年度の「個人能力開発プラン」の土台になる。

 同じことは、360度評価が広く利用されていることにも当てはまる。こうした評価を利用するのは、他人があなたを評価することで、あなた自身に関する事実、すなわち高い信頼性を持って特定し、改善できる何かを明らかにできると信じているからだ。

 だが残念なことに、それは間違っている。研究結果から、あなたもあなたの同僚も、他人に関して信頼性のある評価を下せないことが明らかになっているのだ。つまり、人事評価のデータはほぼすべて、致命的な欠陥を抱えていることになる。