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コーポレートガバナンスや企業価値向上の観点から、取締役会にはこれまで以上に多様性が求められている。にもかかわらず、CEOが影響力を駆使することで、経営側に都合のよい同質的な人物が取締役会に専任されてしまうことが少なくない。本稿では、実在の取締役に関するデータセットを用いたアルゴリズムの訓練結果に基づき、優れたパフォーマンスを発揮する取締役の選出に機械学習モデルを活用する可能性を探る。


 1776年にアダム・スミスの『国富論』が世に出てからというもの、経営の監視役であり助言者であるはずの取締役会が役に立たないと嘆く声は後を絶たない。

 CEOは往々にして、取締役の選出プロセスを実質的にコントロールしているため、自分に逆らうことなく、企業価値の最大化に必要となる多様な視点とは無縁の取締役を選びがちだ。機関投資家は、CEOが取締役会に影響力を持つことへの批判を繰り返し、企業のガバナンス向上に協力してきた。しかし、いまなお、取締役会は完璧からはほど遠い。

 テクノロジーはこの問題の解決に貢献できるだろうか。機械学習の進歩は、顔認識ソフトから自動運転車まで、さまざまなイノベーションをもたらしている。こうした技術のおかげで、多くの業界が急速に変化している。それならば、コーポレートガバナンスの改善にも役立つのではないだろうか。

 私たちはこの問題を検証するため、取締役の選出に機械学習をどう利用できるか、また機械学習によって選ばれた取締役は、経営陣が選んだ取締役とどう違うかについて研究を行った。目指すのは、機械学習モデルを使うことで、企業はより優れた取締役を選出できるようになり、結果的に投資家にとっても益となると実証することである。

 こうした研究が最初にぶつかる課題は、取締役の良し悪しをどこで判断するかである。

 取締役の行動のほとんどは、部外者が観察できない取締役会議という密室の中で起きている。さらに、取締役のやることは取締役会という組織内で生じるため、個人の貢献を切り出すことができない。

 こうした難しさはあるものの、取締役のパフォーマンスについて、公的に入手できる明確な基準が1つある。それは、株主が毎年実施する取締役再任決議の得票率だ。

 取締役候補の選出についてはほとんどの場合、CEOが影響力を発揮し、株主が実際に人選に関わることはできない。だが毎年行われる再任決議については、議決権を行使できる。この議決権には、取締役個人に対する株主の支持が反映されており、理論的には、取締役のパフォーマンスに関して公的に入手可能な、すべての情報が組み込まれていることになる。

 この投票率をパフォーマンスの基準として選んだもう1つの理由として、企業の取締役を専任するポイントが他の採用基準と同一という事実がある。どちらにおいても大事なのは、その人物の将来のパフォーマンスを予測することだ。取締役会に託されているのは株主の利益を代表することであり、当然、株主の議決権はパフォーマンスの測定基準となりうる。