新型コロナウイルス感染症により、サプライチェーンにダメージを受けた日本企業は少なくない。今回の経験をきっかけに、サプライチェーンの再設計を検討する企業も多いのではないか。ものづくり業務改革のための基盤技術の研究、ものづくりとITの融合による新しい社会のデザインを掲げるIVI(Industrial Value Chain Initiative)理事長を務める西岡靖之・法政大学デザイン工学部教授に、サプライチェーンの課題、未来について聞いた。

東日本大震災と新型コロナ、サプライチェーンが受けた衝撃

法政大学デザイン工学部
西岡靖之 教授

 グローバルに拡大した日本企業のサプライチェーンは、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)感染拡大の影響により大きなチャレンジに直面した。医療やIT関連の分野では、「需要はあるけれど、材料や部品の供給が不足して生産できない」という声が多く聞かれた。他方では、需要そのものが急減して業績が悪化した企業もある。

「需要に追い付けなかった企業では、サプライチェーンのどこにボトルネックがあるのかが明らかになったでしょう。また、需要が減少した業界では、サプライチェーンの課題が隠れたままになっているかもしれません。日本企業は過去数十年の間に、サプライチェーンのグローバル化を進めてきました。今回の環境激変が、そのサプライチェーンの柔軟性や強靱さを問い直しています」と語るのは、法政大学デザイン工学部教授の西岡靖之氏である。

 世界に広がり、複雑性を増したサプライチェーン。それを効率的かつ柔軟、強靱なものに進化させてきた企業は、新型コロナによる環境の激変にも比較的ダメージが少ない状態で対応できたはずだ。思い起こせば、日本企業のサプライチェーンは9年前にも厳しい試練に直面した。東日本大震災である。

「いざというときに、究極のリーンは弱い。当然のことではありますが、大震災はこのことを明らかにしました。当時の経験から学び、サプライチェーンの一部が滞った場合に備えて、代替ルートを用意した企業もあります。ただ、そうした企業が多いとは言えません。今回、BCPの見直しを含めて、改めてサプライチェーンを見直そうという機運が高まりつつあると感じます」と西岡氏は話す。

 大震災の衝撃を受け、日本では効率偏重となっていたサプライチェーンの変革の意識が高まった。西岡氏が言及した代替ルートを設けるだけでなく、地産地消や基幹部品生産拠点の配置見直しといった施策を講じてきた企業は少なくない。ところが、新型コロナはそれら施策の想定以上に激しい変化をもたらしたといえそうだ。

「サプライチェーンが実際にどれほどのダメージを受けたのか、あるいはどのようにリカバーしたのか。詳細なレポートが出てくるのは半年から1年後でしょう」と西岡氏。今の段階で、今回の出来事を評価するのは時期尚早かもしれない。とはいえ、自社のサプライチェーンの「あるべき姿」を立ち止まって考えることはできるだろう。