エンジニアリングチェーンとの融合、「IoT×QC/TQC」の可能性

 今後もダイナミックな環境変化が予想される中で、企業はどのような考え方、アプローチでサプライチェーン最適化に取り組むべきだろうか。

「ポイントになるのは、より緊密なつながりです。生産計画や実績、スペックのような情報だけでなく、生産工程の検査データなどを共有すればトレーサビリティを高めることができます。問題が発生すれば、ロット単位、個品単位でのトレースバックも可能になるでしょう」(西岡氏)

 特に、自動車のような人の命に関わる分野では、サプライヤーとの深いレベルでの情報共有が求められるようになると西岡氏は考えている。さらに、サプライチェーンとエンジニアリングチェーンとの融合も大きなテーマだという。

「サプライヤーのサプライヤー、つまり2次、3次サプライヤーの情報をいかに収集するかという課題もあります。これはSCMの高度化に関わるテーマですが、別の観点で、エンジニアリングチェーンとの融合も重要になるでしょう。つまり、サプライチェーンに生産設備などを納入する企業との情報共有です。特にハイエンド商品では、品質や納期などの管理が厳しく求められます。こうした要求に対応するためには、エンジニアリングチェーンを含めて価値提供のプロセス全体を精緻化する必要があります」(西岡氏)

 こうした方向性を推進する上では、IoTへの期待は大きい。生産ラインの結節点などにセンサーを設置し、高頻度でデータを収集し分析しているメーカーは少なくない。今のところ、設備の変調を察知していち早く対策を講じる予防保全などを目的とするケースが多いようだが、西岡氏は日本の製造業が長年取り組んできたQC、TQCとの組み合わせに大きな可能性を見ている。

「品質に関わるデータの取り方、扱い方について、日本の製造業は長年にわたってノウハウを蓄積してきました(図1)。従来はデータの母数が小さかったとはいえ、品質向上に大きな効果を発揮しました。IoTの世界になれば、母数は何千倍か、それ以上になるでしょう。『IoT×QC/TQCのノウハウ』により、品質面だけでなく、グローバルオペレーションの効率化などさまざまな効果を実現できるはずです」(西岡氏)

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図1 日本の強みである、スマートなものづくりの構成単位

 世界中の工場やサプライヤーのIoTデータが、刻々とオペレーションルームに集まるようになれば、データだけを見て「この工場の、このラインで何かが起きた」とすぐに把握することができる。いわば、サプライチェーンのデジタルツインである。