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SOXという「ダモクレスの剣」
414件──。これは、2004年において、アメリカ公開企業がその業績を修正報告した数である。しかも、その61%(253件)が公式の監査を受けたものだった。不可解と言うべきか、むしろ当然のことなのか、財務諸表の修正件数は、エンロン・スキャンダル以後、2002年は330件、2003年が323件といった具合に年々増えている。
また、コーン・フェリー・インターナショナルは毎年、「フォーチュン1000」の取締役会にコーポレート・ガバナンスに関するアンケート調査を実施しているが、エンロン・スキャンダル後の2002年の結果を見てみると、71.2%が「コーポレート・ガバナンスに関するガイドラインを作成済み」であり、62.3%が「ガバナンスの手続きを見直す正式委員会を発足」させているという。これら2つの調査結果がジレンマなのは言うまでもない。
エンロンは、オハイオ州のエネルギー会社、インターノースが1985年にヒューストン・ナチュラル・ガスを買収して生まれた企業だが、90年代を通じて『フォーチュン』誌や『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙からは、アメリカ産業界の寵児と評価され、またマッキンゼー・アンド・カンパニーやボストンコンサルティンググループをはじめ、各コンサルティング会社からは「ベスト・プラクティス」「イノベーター」と称賛されてきた。
にもかかわらず、2001年半ばからその業績に暗雲が立ち込め始める。同年10月、第3四半期に6億1800万ドルの赤字を計上し、株主資本が12億ドル減少したことが明らかになる。
11月28日、ダイナジー(同社も2002年5月、CMSエナジーとの往復取引による売上げの水増しが発覚)との合併計画がご破算になったことが発表されると、ムーディーズをはじめ、スタンダード・アンド・プアーズ、フィッチ・インベスターズは、エンロンの社債に投資不適格の烙印を押した。そして1週間を待たず、12月2日に連邦破産法第11章を申請した。
これを端に、アーサー・アンダーセンと共謀した不正会計処理が発覚すると、堰を切ったかのように、長距離通信キャリアのワールドコム、光通信のグローバル・クロッシング、ケーブルTVのアデルフィア・コミュニケーションズ、世界屈指のコングロマリットのタイコ・インターナショナルなどでも、次々と不正会計が明らかになった。
こうして、「証券取引法の下、開示情報の信頼性と正確性を改善し、投資家を保護する」ために、2002年7月30日、ジョージ・ブッシュ大統領の署名の下、「サーベンス・オクスリー法」(SOX法)が成立した[注1]。全11章69の条文から構成され(表「SOX法の構成」を参照)、PCAOB(公開会社会計監視委員会)の設置、監査人の独立性、ディスクロージャーの拡大、内部統制の義務化、経営者による不正行為への罰則強化、証券アナリストなどに関する規制、内部告発者の保護などが規定されている。
表 SOX法の構成
Ⅰ 公開会社会計監視委員会
Ⅱ監査人の独立性
Ⅲ 会社の責任
Ⅳ 財務ディスクロージャーの強化
Ⅴ 証券アナリストの利益相反
Ⅵ 証券取引委員会の財源と権限
Ⅶ 調査および報告
Ⅷ 2002年企業不正および刑事的不正行為説明責任
Ⅸ ホワイトカラー犯罪に対する罰則強化
Ⅹ 法人税申告書
Ⅺ 企業不正および説明責任
なおブッシュは、彼がテキサス州知事の頃から、エンロンCEOのケネス・レイと蜜月の間柄にあり、長年にわたって多額の政治献金を受けてきた。また、パパ・ブッシュも彼のことを「ケニー・ボーイ」と呼び、何かと便宜を図ってきた。しかも、数カ月ながらCEOを務めたジェフリー・スキリングは、ブッシュの母校、ハーバード・ビジネススクールの後輩でもある。そのブッシュがSOX法を成立させたのは皮肉以外の何物でもない。