企業監査に潜む深刻な問題

 2002年7月30日、ホワイトハウスのイースト・ルーム。共和、民主両党の議員たちが物々しく見守るなか、ジョージ W. ブッシュ第43代大統領は「サーベンス・オクスリー法」(SOX法)に署名した。

 アメリカ企業への信頼を揺るがすきっかけとなった不正会計など、一連の企業スキャンダルに対処するために、その内容は広範に及ぶにもかかわらず、同法案は記録的な速さで下院と上院を通過し、どちらでも圧倒的多数で可決された。

 この結果、企業経営者には新たな法的制約が課せられた。同時に、内部告発者の保護が強化された。そして、おそらく最も重要なことは、連邦政府による会計監査業界への監督が厳しくなったことである。

 監査法人を監視するために、不正を罰する権限が与えられた管理機構を設け、不正会計には、長期の禁固刑をはじめ、厳しい罰則を設けた。「低水準の、しかも不正な利益が許される時代は終わった」とブッシュ大統領は宣言した。

 しかし、話はそれほど簡単ではない。不正会計の規模の大きさ、そして従業員や投資家が被った影響の大きさを見る限り、その根底に潜んでいる問題を、腐敗である、犯罪である、たちの悪い会計士がたちの悪いクライアントのために数字をごまかしたのだなどと、政府や世間の人々が考えたとしても、何の不思議もない。

 ところが、これらは問題の一部分でしかない。これまでも企業監査には深刻な会計上の間違いがつきもので、監査法人にはかなりの罰金が科せられることは日常茶飯事だった。このようなミスの一部が不正行為の結果であることは間違いない。しかし、ミスのほとんどを意図的な不正行為のせいにすると、会計士は詐欺師ばかりということになってしまう。

 会計士と仕事をしたことがある人ならだれでも、そんなはずがないことは知っている。企業監査に潜むより深刻で大きな問題は、現在の慣習を見る限り、無意識下のバイアスに対し無防備であるということだろう。

 バカ正直で、いかに几帳面な会計士であろうと、会計にはしばしば主観が入り込んでしまうこと、また監査法人とクライアントの関係が親密ゆえに本当の財務状況を隠し、投資家や規制当局、時には経営者をもあざむく粉飾を無意識のうちにやってしまうことがあるのだ。