みんな成功例ばかり学んでいる

 戦略家やコンサルタントたちは、成功企業の手法や戦略を研究し、そこから魔法の方程式を導き出そうと試みる。これは、きわめて理にかなった方法のように見える。しかし、これほど危なっかしいことはない。成功企業のケース・スタディはまず誤った結論を導く。

 私は以前、一流起業家の特徴について説明した、こんなプレゼンテーションを聞いたことがある。発表者はさまざまな起業家のケース・スタディをひもとき、成功した起業家には2つの共通点があり、これこそが成功の原因であると結論づけた。

 2つの共通点とは、最初は失敗したものの最後までやり抜いたこと、説得して周囲を巻き込んだことである。この話を聞いた聴衆の大半が「なるほど」と納得していた。とはいえ、言うまでもないが、これらの共通点は大失敗に終わったケースにも顕著である。あえて苦言を呈するならば、発表者がこの点を指摘しなかったことだ。

 考えてみていただきたい。そもそも起業家には、大成功を収めるにしても大失敗に終わるにしても、失敗をものともしない粘り強さ、ドブに捨てることになるかもしれない金を引き出させる説得力が不可欠なのだ。

 ここに、ケース・スタディ学習の問題点を垣間見ることができる。すなわち、既存の企業や経営者を研究することで、ビジネスの成功を一般化しようと試みる者は、統計学で「選択バイアス」と呼ばれる典型的な落とし穴に陥るのである。

 これは、研究対象の母集団を代表しないサンプルに依存することが原因である。したがって、マネジメント研究者が成功企業しか研究対象としないとすれば、そこから導き出される経営慣行と成功との因果関係は、必然的に誤ったものになる。

 成功要因を発見する正しい方法は、高業績を上げている企業と、経営に苦しんでいる企業の両方に目を向けることだ。そうすることで、研究者は成功と失敗を分ける要因が何であるのかを正しく特定できる。

 成功企業の多くが独自の企業文化を持ち合わせている。それゆえ、これまでの研究結果と同様、企業文化が成功を左右するという結論を導き出せるだろう。しかし、倒産した企業についても調べてみると、その多くにも独自の企業文化を見出せるかもしれない。したがって、企業文化の性質は少なくとも企業文化の独自性と同じくらい重要であるという仮説に至り、さらに企業文化の問題全体についてさらに深く検討するようになるかもしれない。