ものづくりへの意欲と情熱、
写真への思いがファンをつかむ
小野 多様化する人の価値観をとらえる時に、我々Ridgelinezは、企業におけるあらゆるステークホルダーの価値観の変化をとらえていく必要があると考えています。
1つ目は、社会の価値観です。先述した通り昨今は、サステナビリティへの意識の高まりが鮮明です。2つ目は、顧客の価値観の変化。これについては、のちほど福家さんにも伺います。そして3つ目が従業員の皆さんの価値観の変化です。人的資本の重要性の高まりも一つの価値観の変化です。我々は、企業が生み出す提供価値と、これら3者の価値観のギャップを最小化するような支援をしていきたいと考えています。
ここで顧客の価値観に話題を移したいと思います。ブランドを維持することと変革することは一見矛盾する課題があると考えています。170年以上の伝統を持つライカさんもブランドを維持する一方で、時代の変遷とともに移りゆく価値観をうまくとらえながらイノベーションを創出してきたと思います。そうした中で重視してきた哲学、あるいはブランドの考え方とはどのようなものですか。
福家 一つは、妥協をしないで最高品質のものをつくるという、意欲と情熱です。光学技術や機械工学に関して、とことん理想のものをつくりたいという情熱が非常に強いということです。
もう一つは、写真そのものを非常に大切にしていることです。たとえば、国際的なフェアや展示会でブースを出展する際も、カメラだけを並べるのではなくて、写真をたくさん並べています。それは、写真を通じて、我々の世界観を感じてもらいたいと考えるからです。これら2つがユーザーの方々の心に刺さる部分なのではないでしょうか。
山口 ライカさんの場合、機能を高めていくことと品質を高めていくことは同じではありません。品質のとらえ方が非常にユニークです。写真を撮るという行為そのものに、真摯に向き合っているメーカーだという印象があります。
田中 ライカさんはカメラ市場の中でも独自のポジションを築かれていて、コアなファン層が多いイメージです。製品を見ても、液晶がない「ライカM10-D」やモノクローム写真専用の機種など、シンプルで潔さすら感じますが、そういった製品を出し続けられる背景、フィロソフィーとは何ですか。
福家 ドイツにいる職人、技術者たちが情熱を注いでものづくりをしていること。その手前の段階で、企画をする人がライカのことを大好きで、こういうカメラがほしいとか、つくりたいという思いが原動力になっています。
日本独自で直営店を展開し
顧客とのつながりを強化
小野 企業として、ブランドとして、人の価値観をとらえていくヒントが少しずつ見えてきましたが、ライカさんの成功事例について、もう少し具体的に伺います。熱狂的なファンの支持を得るために、どういった取り組みを行ってきたのでしょう。

Ridgelinez
Principal
People & Organization Transportation Practice Leader
福家 お客様とじかに接する機会を圧倒的に増やしたいという考えの下、日本法人が直営店を展開していったことが大きかったと思います。
カメラという商材の特徴として、購入時に確認事項が多くて、時間がかかることが挙げられます。購入後も、修理やメンテナンスはもちろん、「こういう写真を撮りたい」といった撮影に関するご相談をお客様からいただくこともよくあります。ですから、メーカーである我々が直接お客様と話す機会をつくるべきだと考えていました。そこで得られる情報や教訓はものづくりに活かせますし、我々のサービスのあり方にも役立ちます。
もう一つは、直営店を単に物を販売する場所ではなくて、我々ライカが持つ世界観を具現化する場所としたことです。お客様が足を踏み入れた時に、ライカとともにいい時間を過ごせる、そんな空間を目指しています。
物を買う、買わないは別として、いい場所でいい時間を過ごしたなとか、スタッフがよかったなとか、そういった感覚を重視されるお客様が多くいらっしゃる中で、写真を軸にして楽しい経験ができる引き出しを増やしていくことに取り組んできました。
小野 お客様との接点を、点ではなく、線、あるいは面にしている。そんな感じですか。
福家 そうですね。自動車などもそうだと思いますが、お客様は買い物に失敗したくないという理由から、ここで購入していいのかどうかも含めて、何度も店に通われます。その際のやり取りがのちの確認事項にもつながっていき、我々にとってはお客様の情報を知るという点で非常にいいことなのです。
もう一つ重要なのは、お客様同士のつながりです。イベントや撮影会などを開催すると、お客様同士が親しくなることが多くあります。これがいいのは、製品を売る立場にいる当社のスタッフから聞く話よりも、仲間同士の情報交換のほうが信頼されるということです。お客様同士のコミュニティが広がっていったことも、ファン層の拡大につながりました。
田中 「長く愛されるブランド」は、企業とユーザー、従業員の関係がシームレスになり、コミュニケーションの境目がなくなっていく。そういう関係性が今後、ますます重要になってくるのではないでしょうか。福家さんのお話を伺って、そう感じました。

Ridgelinez
Creative Director