企業と顧客が価値観を共有できると
ビジネスは強くなる
小野 あらためて企業、ブランドとして、持続的に愛されるためにどうしたらいいのか。社会、顧客、従業員などのステークホルダーに対して、どういった価値を提供すべきか。あるいは、それぞれの価値観をどうとらえていけばいいか、山口さんに伺います。
山口 大事なポイントだと思ったのが、ライカさんにおいては、開発者がライカが大好きで、「こんなカメラがあったらいいな」という思いが開発の原点になっていることです。開発者の価値観が前提となり製品がつくられて、その価値に共感する人が買ってくれるので、同じ価値観を共有しながら仲間になれます。
私は最近、「バリューチェーンからバリューサイクルへ」ということを唱えています。バリューチェーンは顧客が重視する価値観を調べて、ものづくりやサービスに反映していきますが、企業側がその価値観を共有しているかどうかは問わない、あくまで客体としてお客様に接するマーケティングのあり方です。
一方、バリューサイクルでは、「私がほしかったものはまさにこれで、すごく素晴らしいものができたので、一つどうですか」と企業が投げかけると、「あなたがつくったものはすばらしい。私もこういうものがほしいと思っていました」と顧客からの反応が返ってくる関係です。自分たちが感じている価値を明らかにしたうえで、それを提示した時に共感してくれる人が出てくると、ビジネスとしてはものすごく強いわけです。
小野 つくり手と顧客が同じ価値観で動いていると、そこにある種のハーモニーが生まれるという示唆だと理解しましたが、福家さんはどうお考えになりますか。
福家 ご指摘の通りです。我々も日本法人の社員たちがお客様に近い目線を持たないといけないという思いから、社内で写真コンクールを開催し、お客様がよりいい写真を撮るためにどういう思いでおられるのかを知ったり、あるいは、仕事中も写真展を見に行ってもいいことにして、たくさんの写真を見て、写真家さんとも積極的に話すよう促しています。
日本法人にもライカ好きな社員が集まっています。我々自身もユニークなもの、ほかにはないもの、代替ができないものをつくったり、そうしたサービスやエンタテインメントを提供したいと思い続けています。
小野 今日は人の価値観をどうとらえるかをテーマにお話を伺ってきました。我々Ridgelinezとしても、人の価値観をベースに企業の変革を支援していきたいと考えています。
田中 Ridgelinezは誰よりも人を理解している企業になりたいと考え、人の価値観をとらえるためのリサーチを進めています。アカデミックな研究調査とトレンド調査から14の「Human Values」(人の価値観)を定義し、独自の人の価値観モデル「Human&Values Model」を構築しました。
14の価値観の中には、ライカさんの話にも通じる「創作したい」という価値観が含まれています。こういった価値観を定点的にとらえていくために、「Human&Values Model」を立ち上げて、ウェブサイトも開設いたしますのでぜひご覧ください。
小野 最後に一言、福家さん、山口さんからお願いします。
福家 これからも魅力的な製品を提供するとともに、楽しい時間、場所を提供できるよう活動してまいります。本日は貴重な機会にお招きいただき、ありがとうございました。
山口 ライカさんのケーススタディは、非常に示唆に富むものでした。日本企業は機能や利便性を追求してきた側面が強かったと申し上げましたが、日本は伝統的に“手触り”や愛着などを大切にしてきた国です。
ですから、ライカさんの取り組みを参考にしながら、新しい時代の意味、生きがいをつくりながら、お客様にその価値を問い、共有していくことができるといいと思います。