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交渉担当者が成功の可能性を台無しにしている
1998年7月、AT&Tとブリティッシュ・テレコム(BT)は、多国籍企業にグローバルな接続サービスを提供すべく、対等出資の合弁会社、コンサートを設立した。
派手な前宣伝もさることながら、その目標はさらに大きかった。100億ドルの資金を投じて事業インフラを整え、人材と人脈を結集し、当初の利益目標を10億ドルに設定するというものであった。
ところがコンサートは、わずか3年で無に帰した。2300人をレイオフし、70億ドルの損失を出した末、インフラ関連の資産を親会社に返却するはめとなった。事業が失敗したのは不況が大きな理由だったことは間違いないが、合弁契約をまとめる際の強引なやり方も墓穴を掘る一因でもあった。
たとえば、AT&T側の交渉担当者は「子会社のAT&Tソリューションズは、主要顧客である多国籍企業を手離さなくてもよい」という条件をごり押しした。担当者は「うまくやった」とほくそ笑んだかもしれない。しかしその結果、AT&TとBTは直接の競合関係となってしまった。それを防ぐための新規事業だったにもかかわらず──。
一方BT側も、AT&TがIBMグローバル・ネットワークを買収するという話に手を貸さず、一矢報いたかに見えた。もちろん資金を節約できたが、そのためにコンサートの事業方針は乱れ、似たようなサービスを販売する事業が並立するという事態に陥ってしまった。
2000年になると、コンサートは新しい方針が決定されるに伴い、契約条件の変更を発表した。しかし、担当顧客の配分、会計方式、商品の競合など、問題は山積みのままであった。最終的に両社は、コンサートの「電源を切る」よりほかに手立てがなくなった[注1]。
祝杯に始まり、苦い結末に終わる合弁事業は何とも多い。紙の上では素晴らしい内容に見えても、現実に価値をもたらす事業に結実しなかった例はいくらでもある。
契約を履行する段階でつまずくのは、提携や合弁事業だけではない。複数の当事者が関わる合意ならば何であれ、悲運の結末に至ることがある。合併も買収も、アウトソーシングも、あるいは同じ会社で複数の部署が協力する社内プロジェクトも話は同じである。