アジレントの変革リーダーの憂鬱

 だれもが組織は機敏でなければならないと言う。しかし、新しい戦略を導入しようと試みたものの、ギアがニュートラルに引っかかったまま動きが取れずにいる企業は驚くほど多い。

 2000年7月、リン・キャンプが直面した状況について考えてみよう。彼は、アジレント・テクノロジーズのシステムズ・ジェネレーション・アンド・デリバリー部門(SGDU)のバイス・プレジデント兼ゼネラル・マネジャーとして、アジア、ヨーロッパ、アメリカの各地域に細分化された事業部門を一つにまとめ、グローバルな事業会社を設立させる任に就いた。

 それまで製品に関わる意思決定は現地子会社に委ねられていたが、みずからの管理下に置くために、キャンプ率いるマネジメント・チームは当初、職能別組織を採用した。

 これによって、多くの地域で展開されていたノンコア事業から撤退し、グローバルに見て最も有望なビジネスチャンスに焦点を絞ることができた。また、これまで以上に効率的に知識を共有するプロセスも実現した。

 しかし、新体制にはこのような利点があったにもかかわらず、さまざまな問題が表面化してきた。新規事業にはそれ相応のサポートが必要だったが、職能部門はこれをおざなりにした。現地子会社のスタッフたちは軽んじられていると感じ、士気は低下した。

 こうして職能部門、事業部門、そして現地子会社の間で軋轢が高まっていった。マネジメント・チームの意思決定は遅く、新規事業の業績にはだれも責任を負わなかった。

 問題を検討したキャンプは、アカウンタビリティ(説明責任)を高め、意思決定を早め、そして有望な少数の事業を強化する戦略をサポートする最善の方法は、マトリックス型組織に移行することだと判断した。

 ところが、マネジメント・チームはこれに強く反対した。マトリックス型組織はうまく機能しないと考えたからだ。また、彼らはその手に余るほどの仕事を抱えており、大規模な組織再編に取り組める状態ではなかった。