社会保障は今、大切な局面に差し掛かっている難題

 そのとき、これまでほとんど議論がなかったところで、高額な医療によりがん患者の命を救うか否か、というような極限的で論争的な論点から入るのは危険なように思います。むしろ、例えば効果に疑問があるような医薬品を、いつまで医療保険の適用対象にするのかといった、比較的日常的ながら裾野の広いテーマから議論を始めてはどうかと考えます。

西沢:それは現実味のあるアイデアですね。私たちは診察を受けると、薬を出してもらわないと気が済まないような気になっていますが、心理的効果をもたらす治療なども含めて、文字通りサービスの質を上げながらコストを低減する方法はありそうです。その際に充実が求められるのが、まさにプライマリ・ケアの領域だと見ています。

 今回私たちが主催するシンポジウムは、外部から次の3名の識者をお招きしています。医師としてプライマリ・ケアの最前線に立ちつつ、学会の理事長を務めていらっしゃる草場鉄周氏、東京の在宅療養支援診療所で、まさにチーム医療を実践されている薬剤師である大須賀悠子氏、医療経済学をご専門とされ、かねてよりプライマリ・ケアの重要性を訴えてこられた一橋大学教授の井伊雅子氏です。

笠木:薬剤師という専門家をプライマリ・ケアの重要な担い手として正面から位置付けるなど、大変興味深い企画であると感じます。医療、そして社会保障は今大切な局面に差し掛かっている難題であり、民間を含めたさまざまな経験や知識、思考回路を突き合わせて議論を豊かにしていくことはとても意義のあることだと感じます。そうした意味でも、今回のシンポジウムには大きな期待を寄せています。

笠木映里(かさぎ・えり)
東京大学大学院法学政治学研究科教授。2003年東京大学法学部卒業。2003年東京大学大学院法学政治学研究科助手、2006年九州大学大学員法学政治学研究院助教授、2007年同准教授を経て2015年フランス国立科学研究センター(CNRS) リサーチフェロー。2021年より、現職。主な研究分野は社会保障法。

西沢和彦(にしざわ・かずひこ)
日本総合研究所調査部主席研究員。1989年一橋大学社会学部卒業。2001年日本総合研究所。2002年法政大学大学院修士課程(経済学)修了。近著『医療保険制度の再構築 失われつつある〈社会保険としての機能〉を取り戻す』(慶應義塾大学出版会、2020年)

川崎真規(かわさき・まさき)
日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門シニアマネジャー。2001年関西大学総合情報学部卒業。システム会社、コンサルティング会社を経て、2009年入社。2024年関西学院大学大学院修士課程(経営管理)修了見込み。近著『医療・ヘルスケアのためのリアルワールドデータ活用 : ビッグデータの研究利用とビジネス展開』(中央経済社、2022年)

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