科学技術をベースとした産業は
R&Dと投資の能力で優劣が決まる
根岸 低分子化合物でプレゼンスを示してきた日本の製薬会社に対して、中外製薬はバイオ医薬品で業界をリードされています。その違いを含めて、日本の製薬業界の現状をどう見ておられますか。
永山 私は1998年に日本製薬工業協会の会長になりました。それ以降、シンポジウムや記者会見など公の場で、「21世紀はバイオ医薬品が中心になる。世界はその方向に動き出している」という話を何度もしました。しかし、聞いている人たちはピンとこなかったようです。
いまから7年ほど前に、かつて製薬業界を担当していた顔見知りの記者に再会した時、「以前は永山さんが何を言っているのかよく理解できなかったが、いまになってようやくわかった」と言っていました。
売上ベースで見た世界の医薬品市場において、バイオ医薬品が占める割合は全体の3割ほどですが、上位50品目で見ると約6割を占めています。成長性は従来型医薬品よりバイオ医薬品のほうが高く、バイオ市場に参入していないと成長機会は限られたものになってしまいます。
根岸 たしかにバイオ医薬品を手がけているかどうかで、成長性が二分されています。中外製薬以外の日本企業は、立ち後れてしまったのでしょうか。
永山 まだ間に合うと思います。ただ、バイオの研究者を採用してから創薬ができる一人前に育つまでに年数がかかります。その間は、すべて先行投資です。海外での臨床試験や生産設備にも大きな投資が必要です。それだけの時間とお金がかかることは覚悟しなければなりません。
自社が一番得意とする分野に経営資源を集中して、市場を開拓していくのが経営の原則ですから、低分子薬に注力するのはわかります。しかし、技術革新が進行している業界では、適切なタイミングで新しいテクノロジーに乗り換えることができるかどうかで、将来の成長性が決まります。ある意味で、清水の舞台から飛び降りるような決断が必要で、そこが製薬業界の怖いところです。
医薬品開発の主流がケミカルの世界からバイオ技術に移ったことで、化学に強いドイツ企業も医薬品メーカーの世界トップ10から姿を消しました。上位10社に入っているのは、米国が5社、スイスがロシュとノバルティスの2社、英国も2社、フランスがサノフィ1社です。
合併はエモーショナルな部分もあり、抵抗感を抱く経営者もいるでしょうが、サイエンスとテクノロジーをベースとした産業は、R&D能力、投資能力で決まります。その能力を確保するためには合併せざるをえず、欧米の製薬業界は30年かけていまの形に再編されてきたわけです。