日本のバイオクラスターには
スタートアップとキャピタリストが足りない

大川 製薬業界はサイエンスとテクノロジーを基盤としているからこそ、世界に目を向けると産学官の連携が重視されています。たとえば、米国では東海岸のボストンや、西海岸のサンフランシスコ湾岸エリア、サンディエゴなどでバイオクラスターが形成され、そこから新薬が生まれています。

 永山さんは政府のバイオ戦略有識者会議の座長、バイオインダストリー協会の理事長も務めておられますが、一企業だけではなしえない創薬力の底上げについて、どうお考えですか。

永山 ライスサイエンスがこれだけ進化してくると、企業単独でのR&Dには限界があり、産学官が連携を深めるべきは当然のことです。特に大学での基礎研究は非常に大事で、日本はそこに政府がもっとお金を使う必要があると思います。

 産学の連携について言うと、アクテムラも岸本先生のグループと中外による共同研究から生まれましたが、こうした点と点のつながりをもっとシステマティックに面と面のつながりへと広げる必要があります。

 日本の大学では隣の研究室で何の研究をしているのかよくわからないということもありましたが、1980年代に私が米国の大学を訪ねた時は、何人もの教授が同席し、大学で行われている研究が一目でわかる資料を見せられました。その中から共同研究テーマを選ぶことができる仕組みでした。

 ボストンには、マサチューセッツ工科大学(MIT)とハーバード大学が共同で設立したブロード研究所があり、大学の枠を超えてライフサイエンス分野の産学共同研究や企業への知的財産のライセンス供与などを行っています。そういう点も含めて、非常にシステマティックだと感じます。

 日本でも政府のバイオ戦略に基づいて2022年4月、東京圏と関西圏が「グローバルバイオコミュニティ」に認定されましたが、これからはその中身づくりが大事です。海外のバイオクラスターと比べて、日本ではスタートアップとベンチャーキャピタリストの集積が圧倒的に不足しています。

 ボストンなどでは、ベンチャーキャピタリストやインキュベーターがスタートアップを育て、大企業が買い取ってさらに大きく育てるというエコシステムができています。日本では国内のベンチャーキャピタリストが少なく、欧米のベンチャーキャピタルの資金がつくようなスタートアップも多くありません。

 証券会社に勧められて、日本のスタートアップはIPO(新規株式公開)を目指すケースが多いですが、IPOで調達できる資金規模が小さいので、その後の開発がなかなか続きません。

 産学官が連携するだけでなく、しっかりとしたエコシステムをつくることが、日本の創薬力の底上げになると思います。

大川 エコシステムの構築については、我々も率先して動き、貢献しなければならないと考えています。