次世代リーダーたちには
新しい創薬モダリティに挑んでほしい
根岸 薬価の問題について伺います。日本の財政を考えれば社会保障費を抑制しなければならず、薬価を引き下げざるをえません。一方、多額の開発投資の結果生まれた新薬を上市しても、十分な対価を得られなければ、製薬会社は革新的な薬をつくれなくなり、それは国民にとっても損失です。
永山 薬価について私たちが懸念している問題の一つは、供給リスクです。国内生産でも利益が出る薬価にしないと、国産メーカーがいなくなります。そうなると、医薬品の供給を輸入に頼らざるをえませんから、いざという時に調達できないという構造的なリスクを抱え込むことになります。経済安全保障の観点からも、これは大きな問題です。
もう一つは、いまおっしゃったように画期的な新薬が生まれなくなるという問題です。少し古いデータですが、米タフツ大学の試算によると、2010年代初頭では一つのグローバル新薬を生み出すのに25億5800万ドル、日本円で3000億円を優に超える開発費がかかっています。それくらいの投資が必要なのですが、薬価を引き下げるばかりでは、投資は続けられません。
医薬品メーカーの側も、革新的な新薬を開発する覚悟をしっかりと示したうえで、イノベーション創出にはお金がかかることをていねいに説明する必要があると思います。
薬は道路や水道と同じ社会の共通資本です。製薬会社にはいい薬をつくり続ける義務がありますし、政府は社会資本としての医薬品供給を守る義務があると思います。それに、2021年の医薬品の貿易収支は3.3兆円の赤字です。医薬品の国内生産を増やすことは、経済的にも大きな意味があります。
大川 日本経済を担うリーダーたち、とりわけ次世代のリーダーに対してメッセージをお願いします。
永山 平成の時代は、「失われた30年」といわれますが、ミクロ経済の弱さがそのままマクロ経済に反映された結果だと思います。ミクロ経済を強くするには、企業が新しい分野を開拓するしかありません。技術革新の波に合わせて積極的に投資し、新しい成長分野を自分で育てる。自社だけでできないのであれば、合併あるいは提携する。企業のリーダーがそれをしてこなかったことが、日本経済の停滞を招いたといえます。
新年の年頭あいさつなどで全社員に向かって、「思い切った革新をしてください」と語りかける社長がいますが、本当の革新には会社の形を変えたり、大きな資金調達をしたりすることが必要で、それは社員や事業部長にはできません。
社員にできないことをやるのが、リーダーの仕事です。世の中の動きを構造的にとらえて、10年後、20年後も会社が成長できるような仕掛けをつくる。そういう大きな仕事に取り組んでほしいと思います。
最先端の科学については経営トップより若手のほうが敏感ですし、知識も豊富です。医薬品の分野でいえば、抗体医薬、核酸医薬、遺伝子治療、細胞治療、再生医療など新しい創薬モダリティが広がっています。いま儲かっている分野を守るのではなく、そうした新しい分野の開拓にチャレンジする次世代リーダーが、どんどん登場してくれることを願っています。