人類の発展は、移動と循環の歴史

入山 内と外の循環という点で言うと、日本の最大の課題は外国人人材をまったく活かせていないことだと思います。早稲田大学ビジネススクールには、海外から優秀な学生が集まっていて、3カ国語、4カ国語を話せる学生が何人もいます。しかも、みんな日本が大好き。

 ですから、留学生たちは卒業したら日本の企業で働きたいと思っているのですが、大企業はほとんど採用してくれません。そもそも採用担当者が英語を満足に話せないし、逆に外国人留学生に対しては完璧な日本語を要求する。「うちはグローバル人材がほしいんです」と言っていても、受け入れる体制も能力もない。

 だから、私は留学生たちに「ベンチャーに行きなさい」と勧めています。ベンチャー企業なら、片言の日本語でも気にしない。

 外国人留学生は日本の企業に就職しても、何年かするとその会社を辞めて帰国することがあります。それも大企業が採用をためらう理由のようですが、辞めた人とつながりを保っていれば、そこから新たなビジネスが生まれるかもしれないし、辞めた本人が戻ってくる可能性もある。日本のことをよくわかっていて、本国でのネットワークも活かせる出戻り人材は、最強のグローバル人材です。

松江 人の還流は大いに歓迎すべきです。一度外に出た人が戻って来てくれれば、その人が築いた人的ネットワークが、新たに関係人口として加わります。そうすれば、そのつながりで、日本にやってくる人が増えたり、逆に日本からそちらの国に行く人が増えたりして、グローバルな循環が活性化されます。そうした関係人口を世界中に広げていきたいですね。

入山 データ駆動型経済の時代になって、データ活用の必要性が盛んにいわれていますけれども、データだけ循環させてもだめなんですよね。人と情報、金が循環しないと。

 私が最近よく言うのは、デジタル社会だからこそ人のつながりが勝負を決めるということです。ビジネスで本当に重要な情報は、デジタルデータとしては絶対に出て来ませんから。

松江 データの循環はシステムとして実装されつつあります。ですから、そこに人、物、金、情報をかけ合わせて、実体経済の価値を上げていくことが重要です。

入山 今日の対談で、「循環」が重要なキーワードだということをあらためて認識しました。人類の歴史を振り返ってみれば、7万年前にホモサピエンスがアフリカを出たことから始まって、古代文明の交流や伝播など、その発展は移動と循環がもたらしたといえます。

 そう考えると、居場所を変えず、ずっと同じところに留まっているというのは、発展の法則に反しています。恒常的に移動し、循環するからこそ人類も経済も発展する。その移動と循環が、この数十年の日本ではぴたりと止まっていた。だからこそ、私たちはそれを取り戻す必要があります。

松江 おっしゃる通りだと思います。人口減少という新たなステージをいち早く経験している日本は、世界に先駆けて「循環による新たな成長モデル」を構築することで、22世紀に向けて再び発展の歴史を刻むことができると、私はそう信じています。