チャレンジを恐れず、変わること自体を楽しんでほしい

立岡 日本の医療機器メーカーも、守る側ではなく、変化を主導する側に立つ必要がありますね。

中野 はい。私たち自身も、データドリブンへの感度をもっと上げていかなくてはなりませんし、財団内部では「いままでと同じことをしていたら明日はない」とよく話し合っています。

 データを有効活用すれば、患者さんにとって画期的な医療機器が開発できるし、医療現場の負担が軽減されるし、病院の経営効率も高められます。つまり、これからはすべてがデータ起点になっていくと思います。

立岡 SaMD(プログラム医療機器)などに象徴されるような、データを活用した新たな医療機器が求められていますし、予防・未病を含めて医療の射程範囲が広がっています。

中野 これから、もっと大きく変わるでしょうね。日本の医療は1990年代まで急性期疾患への対応、救命率をいかに上げるかに力点が置かれ、2000年代に入ってからは慢性期疾患、生活習慣病への対応に注力してきました。ここまでは、従来型の医療機器で十分に役立ってきましたが、これから先は、精神疾患とか、遺伝的要因や環境要因などが合わさって発症する多因子疾患などに対して、テクノロジーを使ってどうケアしていくかという時代が来ます。これには、データで患者さんを取り巻く全体的な状況を把握するアプローチでしか対応できないと思います。

 おっしゃる通り、SaMDのようにスマートフォンアプリで診断や治療ができる時代になってきました。慢性疾患や精神疾患の患者さんにとっては、いつも身近にいて見守ったり、アドバイスしたりしてくれるデジタルドクターのような存在です。その存在によって、データの利活用が、病院の中から患者さんのふだんの生活の中に広がっていく。その違いは大きいと思います。

 そうしたフィールドの広がりを技術的にも制度的にもどうやって担保していくか。それがデータを単なる効率化のツールに終わらせず、社会にとって大きな価値を生み出していくうえでのカギになると思います。

立岡 医療とデータの組み合わせで生まれる価値を、未到の領域に広げていくためには、私たち一人ひとりがますます心の中のゴーストを追い払って、保守的になりすぎずに立法趣旨を踏まえた対応をすることが必要ですね。では最後に、医療機器に関わるビジネスパーソンに対するメッセージをお願いします。

中野 変わることにチャレンジしてほしいと思いますね。それが多分、いまの日本に一番欠けている部分ではないでしょうか。「失敗したらどうしよう」とか、「自分がチャレンジしても何も変えられない」とか思わないで、変わること自体を楽しんでほしいと思っています。

 自分が立ち止まっている間に、世界はどんどん変わっていきます。医療機器の分野でも、世の中にインパクトを与えるようなスタートアップが増えています。個人的には革新的な医療機器開発にチャレンジする人がもっと増えてほしいですけど、もちろん医療機器でなくても構いません。何かにチャレンジして、一人ひとりがハッピーになってほしいですね。