なぜM&Aの多くが失敗するのか

 悲劇を招く処方箋のように聞こえるだろうか。あなたの会社は毎年巨額の損失を計上しており、買い手を探すことになった。必死にコスト削減に努めてきたものの、やや行きすぎの感がある。おかげで、顧客サービスも新製品開発もおろそかになってしまった。市場はいつも力強い成長を求めてくる。いまのままではどうにもならないと内心わかっている。対外的には絶対に認めはしないが──。

 そして、悲劇の幕が上がる。それは、株主が求める高水準の成長を続けるための大々的な買収劇である。しかし厳しい現実が示すとおり、買収の7、8割が失敗している。つまり、買収側の株主価値を創出できずに終わっているのだ。

 実際、価値を損なう場合のほうが多い。しかも、それはとんでもない規模に上っている。M&Aが流行した1995年から2000年頃にかけて、企業買収額の合計は12兆ドルを超えた。そして、これらの買収で消えた株主の資産は、少なく見積もっても1兆ドルに及ぶ。比較のために言えば、ドットコム・バブルで投資家たちが失った金額がせいぜい1兆ドルくらいである。

 愚かな企業買収は、ドットコム企業の全部を合わせた以上にひどい損害を投資家に与える。M&Aブームは収まったとはいえ、今後もなくなるとは思えない。そのやり方を変えない限り、錯覚に陥った経営者が株主の富を損なうという悲劇は続くことだろう。

 ちょっと考えてみるとおかしな話ではないだろうか。何しろ失敗した買収のなかには、世界クラスの一流企業がひしめいており、そこにアドバイスを与えたのは、超高学歴の投資銀行家たちなのである。

 このような専門家の手による企業買収がこれほど成績が悪いというのに、その成功確率を高めることなど、はたして可能なのだろうか。