エグゼクティブコーチとして成功するには何が必要か
エグゼクティブコーチとして成功するには、まずコーチングの技術を習得する必要がある。認定コーチングスクールのトレーニングは1年かかることもある。ICFの認定を得るには、さらにメンターのコーチと一緒に仕事をし、最低100時間、クライアントにコーチングを行い、試験に合格しなければならない。
独立して開業するコーチは、起業家になる必要もある。組織に雇用されるコーチもいるが、多くの人は独り立ちして営業する。それはつまり起業することであり、起業と同じ潜在的なリスクと報いを伴う。コーチングよりもビジネスの構築に労力と時間をそそがなくてはならないだろう。2022年のICFグローバル・コーチング・スタディによると、開業したコーチがコーチングに充てる時間は、平均して週12時間を下回る。
新しくコーチになった人は、コーチング以外にも売り込みのスキルを習得する必要がある。優秀なコーチであるだけでは不十分で、コーチングを生業にするためには、ビジネス開発を学ばなければならない。たとえば、ネットワーキング、執筆や講演活動、セミナーの運営、潜在的クライアントとの適切な会話などがある。
売り込みやビジネスの構築に興味のない人はどうすればよいだろうか。それを代行し、しかもかなりの収入を提供してくれる企業と提携すればよい。もし、その方向に進むつもりなら、企業に選ばれるために、多くのコーチング時間を重ね、優れた実績を積むとよい。
コーチングの収入を増やすには、何年もかかるかもしれない。ICFによると、コーチングの経験年数は収入の伸びと正の相関関係にあるという。コーチの収入能力はばらつきが大きく、ICFの調査によると、世界のコーチの53%は、コーチングによる年間所得が3万ドル未満である。一般的に、経験を積んだコーチほど、コーチングセッション1時間当たりの平均報酬額が高い。認定プログラムを終了してまもない新人のコーチの平均報酬額は1時間当たり100~300ドルだが、ベテランのコーチは750ドルを超えることがある。筆者らの経験では、経営幹部レベルのエグゼクティブが期待するのは、エグゼクティブコーチとしてフルタイムで5~7年以上の経験を積んだコーチである。
この苦しい時期を乗り切るために、多くの新人コーチはコーチング以外のサービスにも手を広げて、多様なビジネスを展開している。開業したコーチのほぼすべて(93%)が、コーチング以外のサービスも提供している。最も多いのが、コンサルティング(59%)、トレーニング(58%)、ファシリテーションサービス(55%)である。リーダーシップ開発に関連するテーマで、オンラインや対面のさまざまなワークショップで教えることもある。開業したコーチはコーチングのほかに、平均して3種類近く(正確には2.8)のサービスを提供している。
筆者らは新人ではないが、全員が実感していることがある。このような多様な仕事によってコーチングに深みと達成感が加わったこと、より優れたコーチに成長し、クライアントにとって魅力的な存在になれてきていることだ。
本気でプロのコーチになりたい人は何をすべきか
もしプロのコーチになりたいのなら、何よりもまず、コーチングとは何かを本当に理解するために、有資格のコーチと一緒に仕事をすることをお勧めする。そうすれば、自分が本当にやりたいことは人にアドバイスをすることなのか、何かのやり方について自分の経験を分かち合うことなのか、問題を解決することなのかと、自問するようになるだろう。そして、自分はコンサルタントかメンター、あるいは教師のほうが向いていると気づくかもしれない。
次に、独立して仕事をするのと他人と協力して仕事をするのとでは、自分はどちらが成功しそうかを検討すべきである。実のところ、コーチングはチームスポーツではない。一人ぼっちのホームオフィスで、交流する相手もなく、一日中、クライアントからの電話に次々と対応することもしばしばだ。人と一緒に仕事をするのが好きでコーチになる人は多いが、気がついたら、家で一人ぼっちで働いているのである。
さらに、信頼できる知り合いのコーチに連絡を取り、実際にどのようにして生計を立てているのか、またコーチになることについて、あらかじめ教えてほしかったと思うことはないか聞いてみよう。筆者らの中にも、どれほど孤独な仕事かわかっていればよかったという声がある。コーチングの仕事を誤解されることがいかに多いかを知っていればよかったとの声もある(したがって、時間と労力をかけてでも、事前にクライアントに対して明確な期待を設定することが重要なのだ)。どのようなリーダーや状況を専門にしたいかを見極めたほうがよいというアドバイスは、もっと早くほしかったという声もある。
毎日、時間を割いてネットワークを開拓しよう。そこから、紹介やクライアントが生まれるからだ。
そして、個人的な能力開発に努めよう。認可コーチングスクール(対面、オンライン、ハイブリッド)に出席し、継続教育のコースを取り、コーチング業を構築する苦労も喜びも分かち合えるコーチのコミュニティに参加するとよい。国際コーチング連盟は、この3つすべてを見つける手助けをしてくれる。
最後に、コーチとしてのトレーニングを受ける期間や、コーチング開業から最初の数年間の生計を立てる手段を見つけておくとよい。
エグゼクティブコーチの仕事は達成感もやりがいも柔軟性もあって、高収入で、何より楽しい。優秀なコーチになるために投資し、コーチングビジネスの構築にエネルギーをそそぐことで、あなたは人が自分の可能性を想像し実現するための手助けをするというキャリアを切り開くことができる。
戦略を持ち、適切なメンターやアドバイザー、そしてコーチとともにこのプロセスに取り組むならば、着実に前進できるだろう。
"What It Really Takes to Become an Executive Coach," HBR.org, December 07, 2023.