転換的学習を阻むものは何か

 経営幹部が多くの時間と金、そして熱意を企業変革プログラムに投入しているにもかかわらず、抜本的な改革に成功を収める企業は現実にはほとんどない。

 それは、これらの企業の社員たちが「転換的学習」(transformational learning)に失敗しがちだからである。組織に深く根づいた戦略やプロセスにあえて異議を申し立てたり、既存の思考や行動を根本的に変えたりすることは稀である。たいていの人がうわべだけを取り繕って、従来どおりそのまま続ける。多くの組織専門家は転換的学習を21世紀の競争のカギと考えているが、このようなアプローチではとうてい無理である。

 なぜ転換的学習はこれほどまで難しいのだろうか。この問題を探るため、HBR誌シニア・エディターのダイアン L. クーツが心理学者のエドガー H. シャインをマサチューセッツ州ケンブリッジの自宅に訪ねた。

 彼はマサチューセッツ工科大学スローン・スクール(以下MIT)の経営学名誉教授であり、世界的に著名な組織開発の専門家である。また、ディジタル、ゼネラル・フーズ、ロイヤル・ダッチ・シェル、ブリティッシュ・ペトロリアム(現BPアモコ)、チバガイギーといった企業の研究員やコンサルタントも務めてきた。シャインは組織におけるさまざまな人間行動の理由について、きわめて独創的な考察を行った人物と目されている。

 シャインの研究者としてのキャリアは一風変わったかたちで幕を開けた。その最初の研究は1953年、朝鮮戦争が終結した直後の朝鮮半島においてだった。彼はいかにアメリカ人捕虜が敵に洗脳されていったのかについて詳細に研究し、その成果は以後約40年間にわたり同氏の研究の基礎を形成した。この知識を組織学習に当てはめたのが『組織心理学』であり、この分野を定義づける金字塔的なテキストとなった。

 また「キャリア・ダイナミックス」という組織行動学の一分野を生み出すと共に、「プロセス・コンサルテーション」の概念を導き出し、経営コンサルタントの役割は組織の自助努力を促すことであると強調した。近年は、企業文化とリーダーシップを重点的に研究している。

 企業における学習と変革を語る際、必ずつきものであるバラ色の謳い文句とは対照的に、シャインは企業に達成可能なことと不可能なことを慎重に見極めようとする。さらに彼は、学習のみならず、そして学習に必然的に付随する変革は複雑なプロセスであり、集団にとっても個人にとっても、達成感よりフラストレーションを感じさせる場合のほうが多いと警告する。