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自然の一部として人類が存続するために
パタゴニア草創期の社員は、学業成績があまりぱっとせず、特に有能とは思えない人が多かった。まっとうに働く気のないクライマーやサーファーばかりだったのだ。ちなみに、パタゴニアの前身である会社、シュイナード・イクイップメントで私が働き始めた51年前、会社の規模は社員10人あまり、年商40万ドルだった。
小さな会社だったが、私は、その志がとても気に入っていた。製品もすばらしかったし、昼日中に仕事を抜けて自然に身を投じられるのもすごいなと思った(私自身は、クライミングもサーフィンもしないのだが)。パタゴニアを立ち上げたのは、協力の仕方を学んだ異端児だ。パタゴニアが発信するデザインがアウトドアの装いを変革し、パタゴニアそのものも大きく成長することになると、あの1973年に言われたら、「そうなるかもね」と返しはしたかもしれない。
だが、環境保護の大家アルド・レオポルドが唱えた土地倫理を語られていたら、本質的には正しいが現実には不可能だと思ったに違いない。彼は「物事は、生物共同体の統合性・安定性・美を保つ傾向にある場合に正しい」(生物共同体とは人類を含む生物すべての共同体を意味する)と書いているのだ。さらに、「その傾向にない場合にはまちがっている」とも書いている。当時の私なら、そんなことは実現不可能だと考えたはずだ。
その後、私の考えは変わった。イヴォンとマリンダのシュイナード夫妻や反抗心にあふれ協調性の高い同僚が驚くほどの成果を上げてきたからだ。ただし、やらなければならないことのスケールに比べると、ごくわずかしかできていないというのも、また、まちがいのない事実である。
さらに、この10年で、先進国の戦争に不安定化した地域からの人口流出と社会的惨事がふたつも起きた結果、環境危機が大幅に激化し、地球に危機が迫っていることも指摘しておこう。それでもなお、微々たるものであってもパタゴニアが実現した業務改革により、我々も、我々と似た志で事業を行っている友人も、世界における自分たちの役割を新たな視点から見られるようになった。
産業革命が始まってこのかた250年、人類は、「その傾向にない」やり方ばかりしてきた。日々の暮らしを支え、社会を回す事業は、いずれも、世界の統合性・安定性・美を損なう傾向にあったし、いまもあるのだ。だが我々は、「まちがっている」のはしかたのないことではないのだと、新たな道しるべのビジネスモデルを掲げたパタゴニア プロビジョンズから学んだ。自然が存続するためには、そして、自然の一部として人類も存続するためには、レオポルドの言う「正しい」ことをできるようにならねばならない。そうすることは可能である。そして、必要である。
『レスポンシブル・カンパニーの未来 パタゴニアが50年かけて学んだこと』
[著者] ヴィンセント・スタンリー、イヴォン・シュイナード
[訳者] 井口耕二
[内容紹介] 持続可能な社会と環境を目指し、責任ある企業はどのように行動すべきか--。環境経営の先駆けとして知られるパタゴニアが50年にわたって試行錯誤を続け、築き上げた考え方と行動指針、チェックリストまですべて公開する。創業者イヴォン・シュイナードの勇退にあたって記された未来へのメッセージ。フルカラー愛蔵版
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