持続的な成長のため企業の原則に立ち返る

編集部(以下色文字):新型コロナウイルスをはじめとする感染症や世界情勢の不安定化、自然災害の発生などにより、持続的な成長が非常に難しい時代になりました。ファスニング事業を展開するYKKも、アパレル市場が低迷する影響で苦しい状況にある中、大谷社長は持続的な成長に向けて、何を重要視して経営の舵取りをしてきましたか。

大谷(以下略):私たちは4年を一つのタームとして中期事業計画をつくっており、2020年が現在の第6次中期経営計画の方針を決める時でした。まさにコロナ禍に突入したばかりの頃で、4年間の計画を決めることは難しいと思いました。市況の行方が手探り状態で、来年度の売上げがどうなるか、まったくわからなかったからです。そこで、いまこそYKKの企業精神である「善の巡環」に立ち返り、そこから事業方針をつくろうと決めました。

「善の巡環」とは、創業者の吉田忠雄(よしだ・ただお)が幼少期に読んだアンドリュー・カーネギーの伝記にあった「他人の利益を図らずして自らの繁栄はない」という言葉に感動し、それをもとにつくった経営哲学です。当時、感動した吉田(よしだ)は、自分がもし経営に携わる時には、利他の精神を第一に、存在意義のある会社をつくろうと考えていたといいます。