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メンタルヘルスに悩んでいても支援を受けない
「何度も予約を入れようと思いました。でも、結局行きませんでした。他人の助けを必要とするほど深刻なことかどうかわからなかったですし、不必要に他人の時間を奪いたくなかったのです」
燃え尽き症候群(バーンアウト)の症状に苦しんでいたある友人は、パンデミック後に職場が導入した出張カウンセリングについて、このように話した。この友人のような人は少なくない。メンタルヘルスは職場の課題である。世界において、メンタルヘルスを損なう主な要因である不安や抑鬱の症状に悩む人の割合は、2019年には11%だったが、2021年には41%に達した。そして、従業員はメンタルヘルスケアの拡充を求めている。米国心理学会による2022年の報告書によると、従業員の81%がメンタルヘルスケアを今後仕事を選ぶ際の重要な優先項目だと考えている。
このような傾向を受けて、多くの企業が「メンタルヘルス・デー」や、カウンセリング費用の補助、ピア支援プログラム、メンタルヘルス・アプリなど、新たなメンタルヘルスの取り組みに投資したり、既存の取り組みを強化したりしている。
しかし、上記の例が示すように、こうした善意の取り組みを利用しない従業員が多い。
筆者ら行動科学者と組織行動学者のチームは、その理由は何だろうかと考えた。取り組みが根本的に間違っているのだろうか、それとも従業員が取り組みに価値を見出していないのだろうか。
現在進行中の調査からは、別の答えが示唆される。それは、職場におけるメンタルヘルスへの負のイメージが、必要な支援を受ける妨げとなっている、ということだ。初期の調査結果からも、メンタルヘルス関連のリソースの利用を促進する簡単な方法が導き出せる。つまり、同僚が苦しんでいる話を聞かせるだけで、職場のメンタルヘルス支援への負のイメージが払拭され、既存のピアサポート制度の利用が8%も増加することがわかったのだ。
ノバルティスでの実験
筆者らは、スイスの製薬多国籍企業、ノバルティスで働く従業員2400人を対象に、ランダム化比較試験を実施した。英国、アイルランド、インド、マレーシアの現地リーダーの協力を得て被験者を募集した。ここ数年、ノバルティスはピアサポートプログラムでサポーターを務めるメンタルヘルス・ファーストエイダー(MHFA)を1000人以上養成してきた。MHFAになりたがる従業員は多かったが、プログラムの利用率は低いままだった。