職場の一体感が性差別を見えにくくする
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サマリー:職場におけるジェンダー差別は、表面上、あまり見られなくなった一方で、最近はさりげない形で存在するようになっている。特に、職場における女性への無礼な振る舞いは至るところに蔓延しており、職場への愛着が強い... もっと見る人はこれを差別意識によるものだとは捉えない傾向がある。これを是正するためには、差別を気づきにくくする「うちではありえない」というバイアスに対処する必要がある。 閉じる

「うちではありえない」というバイアス

 あなたは、いまオフィスのエレベーターの中にいる。ドアが開いて、同僚社員2人が激論を戦わせながら入ってくる。一人は男性、もう一人は女性だ。女性社員は、自分がリーダーを務めているプロジェクトに関わる問題について説明しようとしている。ところが、男性社員はその言葉を途中で遮り、こう言い放つ。「いい加減にしてくれよ。君の話も君の意見も、もううんざりだ」。すると、女性社員は黙り込んでしまう。明らかに、男性社員の発言にショックを受け、動揺している。

 男性社員が癇癪を起したことは、礼儀を欠いた振る舞いであり、不適切な態度だと、多くの人は感じるだろう。しかし、以下の点については、どのように考えるだろうか。

 この出来事は、職場における不適切な振る舞い──同僚同士が互いに敬意を払い、協調して行動すべきだという職場の規範に反する行動──の一般的な事例と見なせるのか。あるいは、(こちらのほうがより好ましくないのだが)特定の属性の人に向けられた不適切な振る舞いと見なすべきなのか。要するにこれは、さりげないジェンダー差別なのか。概して、職場では女性のほうがそうしたさりげない差別を経験することが多い。

 この問いに対する明確な答えは存在しない。ここで挙げた状況をどのように考えるかは、主観的な面が強い。一人ひとりのバイアスの影響を受けやすく、個人の解釈に左右される余地が大きいのである。

 しかし、筆者らが最近行った研究により、明らかになったことがある。研究によると、職場に強い愛着を抱いている人は、このようなやり取りを、ジェンダーを理由とする無礼な振る舞い(つまり、特定の属性の持ち主を標的とする選択的な言動)ではなく、ジェンダーとは無関係の無礼な振る舞い(つまり、相手の属性とは関係なく取られる全般的な言動)と解釈する可能性が高いようだ。職場への愛着が強い人は、このような場面を目の当たりにした時、バイアスにより判断を曇らされやすいのである。

 なぜこのようなことが起きるのか。人は職場への一体感を抱くと、その組織が成功すれば誇らしく感じ、その組織が失敗したり、過ちを犯したりすれば恥ずかしく感じる。働き手が職場への一体感を持つことには、働き手と組織の両方にとっていくつもの恩恵(たとえば、仕事のパフォーマンスや職場への貢献度の向上など)があるが、その一方で、さりげない無礼な振る舞いや「マイクロアグレッション」、すなわち自覚のない差別的言動を差別の一種と判断しにくくなる可能性もあるのだ。