
-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
適切なアイデアを生み出すための4つの柱
企業がイノベーションを生み出すうえで難しいのは、アイデアの量であることは、まずない。実際、筆者の会社が2024年に実施した調査では、アイデアが乏しいことが最大の問題だと答えた企業イノベーターはわずか6%だった。だが、すべてのアイデアに同等の価値があるわけではない。また、貧弱なアイデアや派生的なアイデアに注目が集まりすぎることもある。多くの場合、イノベーションの元になるアイデアは、新しいトレンドに関連していて、その会社だけではどうにもならない要素が含まれ、育てる必要があり、部門横断的な性質を持つ。そこで本当に必要なのは、適切なアイデアに注目が集まり、検討されるようにすることだ。
では、どうすればよいのか。
拙著The Innovative Leader(未訳)のためのリサーチ過程で、イノベーションには4つの柱があることがわかった。筆者は共著者のジェニファー・ルオ・ローとハリ・ネアとともに、グーグルやマイクロソフトといった大手テクノロジー企業から、シンガポール最大の銀行、さらには小学校向け事業者まで、さまざまな業界のリーダー50人の話を聞いた。その結果、極めて異なる環境でも、成功するイノベーションには共通するパターンがあることがわかった。
もしあなたが、適切なアイデアを育てるのに苦労しているなら、この4つの柱を構築すれば、質の高いアイデアが生まれる可能性を高められるだろう。
トレンドセンシング
企業はトレンドに飛びつきがちだが、そのタイミングは、自社のライフサイクルにそのトレンドが十分に入ってきてからであること多い。これはコストとリスクを伴うおそれがある。市場価値はすでにそのトレンドを織り込み済みで、すでにそのトレンドのピークは超えているかもしれないからだ。たとえば、食品飲料の世界大手ネスレは、2006年にダイエット支援事業のジェニークレイグを約6億ドルで買収した。ところが、栄養科学分野での新たな発見により、減量のトレンドは、ジェニークレイグが注目する脂肪含有量から別の要素へと移り始めていた。このためネスレは不採算ブランドをいくつか処分したほか、7年後には買収価格を下回る金額でジェニークレイグを売却することになった。
トレンドセンシングを誤るパターンは他にもある。企業は、人口の高齢化などのトレンドを漠然と取り上げるだけで、顧客のニーズやサプライヤーの能力、オペレーション上の課題、競争が具体的にどう変わるかといったことに結びつけて考えないことがある。あるいは、トレンドセンシングと言っても、押しの強い人物が、漠然とした気配に大がかりな戦略的意味合いを見出して、それを熱弁する(「AIの運用が広がっているから、社内のIT人材を強化すべきだ」など)機会になってしまうこともある。これは高くつく失敗となる可能性がある。その結果、企業はトレンドには沿っていても、競争的な差別化要因や経済性といった強みを欠く資産に法外な金額を支払うことになりかねない。その最も悲惨な例は、インターネットバブル時代のタイムワーナーによるAOLの合併である。
代替策
これとは対照的な例が、米飲料品・食品大手ペプシコだ。同社は2012年から2018年にかけて、成形ポテトチップのレイズ(Lay's)のマーケティング戦略として、「Do Us a Flavor」(「私たちを助けてください」という意味の「Do us a favor」をもじった表現)キャンペーンを実施した。どのようなフレーバー(味)のレイズを発売してほしいか、消費者からアイデアを募る企画だ。実際には、社内に十分多くのアイデアがあり、消費者の声を聞く必要はなかった。だが、このキャンペーンは、どの地域でどのような味への関心が高いかを知る優れた方法となった(初年度のチャンピオンはチーズガーリックブレッド味だった)。