革新的な企業を世に送り出す
ベンチャーキャピタルの手法

 我々の周囲に存在する極めて革新的な企業の背後には、ベンチャー投資家の知られざる働きがある。筆者らの一人、ストレブラエフが実施した調査によると、現存する米国最大規模の上場企業300社のうち、ベンチャーキャピタリストが裏で立ち上げに関わった企業は5分の1を占める。

 ベンチャーキャピタル(VC)は、インターネット、モバイル革命、そして今日では、ありとあらゆる種類のAIの力を解き放つうえで、不可欠な役割を果たしている。アップル、グーグル、モデルナ、ネットフリックス、エアビーアンドビー、オープンAI、セールスフォース、テスラ、ウーバー、そしてズーム。これらの企業は創業当初、資金力があり、成功している老舗の競合他社と比べて、リソースや支援、実績で劣っていた。にもかかわらず、業界全体を破壊(ディスラプト)した。

 理論上は、どの企業も既存企業の内部から生まれてもおかしくなかったが、そうはならなかった。代わりに、それらの企業に資金を提供し、立ち上げを支援したのはVCだった。実際、過去50年間で設立された米国の大企業のうち、VCの支援がなければ存在しなかった企業、あるいは現在の規模に達しなかった企業は4分の3に及ぶと、筆者らは試算している。

 問題は、それはなぜかということだ。シリコンバレー、ベルリン、北京を拠点とする小規模で敏捷なVCは、のちに大成功を収め、革新的なトレンドを牽引することになるスタートアップを発掘し、資金提供することに、なぜこれほど秀でているのか。実績豊富で幅広いネットワークを有し、強大な力を持つ大企業には備わっていない、いかなるスキルをVCは持つのか。そして何よりも、そのようなスキルは再現可能なのか。

 筆者らはこの10年間、最も成功したベンチャー投資家を研究し、その意思決定の方法について分析してきた。また、VCのトップリーダー数百人を対象にインタビューや調査を実施した。さらに、企業についても研究し、意思決定に焦点を当てた数々の実験を行い、企業のイノベーション創出やベンチャー投資の事業に関して、多くの企業と協働してきた。

 その結果、成功を収めているVCの意思決定の方法は、伝統的な企業のそれとは異なることが明らかになった。VCは筆者らが「ベンチャーマインドセット」と呼ぶ手法を活用しているのだ。