答えが重要な時代から
質問こそが重要な時代へ

 米半導体メーカー、エヌビディアのCEOで共同創業者のジェンスン・フアンは、変化のスピードが速く、機敏かつ独創的な思考が求められる業界で会社の舵取りをしている。フアンは自分の経営スタイルがどのように進化してきたかを振り返り、『ニューヨーク・タイムズ』で次のように語っている。

「おそらく私は、答えることよりも質問することのほうがずっと多いと思います。(中略)いまの私なら、一日中ひたすら質問し続けることもできるでしょう」と彼は話す。「私が何かに探りを入れることで、(配下の経営チームは)検討の必要があると気づいてもいなかったアイデアを検討するようになります」

 テクノロジー業界が長年向き合ってきた切迫感と予測不可能性は、いまや成熟産業にも広がっている。このため、質問のスキルは不可欠なものへとその重要性を増した。AIの進歩により、答えこそが最重要の世界から、質問こそが最重要の世界へと地殻変動が起きた。大きな差を生み出すのは、もはや情報収集能力ではない。優れた「プロンプト」(答えを引き出す質問文)を考え出す能力なのだ。

「あなたがリーダーなら答えは持っていません。社員が、部下が、答えを持っています」──米大手金融シティグループのCEOジェーン・フレイザーは、『フォーチュン』にそう語っている。「このため、組織のリーダーがすべきことは完全に変わりました。リーダーがすべきは(社員の)独創性を解き放つことです。(中略)企業のトップがあらゆることに答えられる天才だとしても、イノベーションは起きません」

 たしかにリーダーたちは、聞く力や好奇心、学び、謙虚さ──質問スキルを高めるのに欠かせない資質──を重視して身につけるようになった。最近は、答えではなく質問を生み出すためのブレインストーミングである「クエスチョンストーミング」が、創造性の手法の一つになっている。

 とはいえ、ビジネスリーダーは弁護士や医師、精神分析医などとは違い、質問のやり方について正式な訓練を受けてはいない。実地訓練するしかないのである(この点については、たとえば、「リーダーのEI(感情的知性)を高める優れた質問力」DHBR2018年12月号などを参照[注1])。