活力のマネジメントが業績を左右する

 スティーブ・ワナーは37歳、監査法人アーンスト・アンド・ヤングのパートナーで、周囲から一目置かれている。奥さんと幼い子どもが4人いる。

 私は1年ほど前に会ったのだが、彼は毎日12~14時間働いており、いつも疲れ気味で、夜も家族の相手をしている暇はなかった。家族に悪いと感じ、満たされない思いでいた。睡眠も満足に取れず、運動する時間もなく、ちゃんとした食事もままならない。移動中あるいはデスクに座ったまま、何か適当につまむことが多かった。

 ワナーのような例は珍しくない。職場での要求は厳しさを増しており、ほとんどの人が長時間労働でこれに応えているが、それは当然、肉体にも、知性にも、感情にも累を及ぼす。やる気は下がり、注意は散漫になり、離職率が上がり、社員たちが負担する医療費もかさむことになる。

 私はエナジー・プロジェクトの同僚たちと、大企業へのコンサルティングやコーチングを提供し、この5年間で数千人のリーダーやマネジャーを見てきた。彼ら彼女らからは、仕事の要求に応えるため、かつてないくらい努力しているが、きつくて、もはや限界に近いという声を、びっくりするくらい何度も聞かされた。

 長時間労働の本質的な問題は、時間という資源が有限であることだ。しかし、人間の活力(エネルギー)はちょっと違う。活力を物理学では「仕事をする能力」と定義するが、この活力を生み出す源は4つ、すなわち「肉体」「感情」「知性」「精神」である。

 これら4つのいずれにおいても、具体的な「儀式(リチュアル)」によって、活力を徐々に拡大し、定期的に再活性化できる。ここで言う儀式とは、「意識的に規則正しく実践する決まった行動」のことである。これを繰り返すことで、なるべく早く、無意識かつ自動的にできるようにしていけばよい。

 組織レベルで社員の活力を再活性化するには、「人材から何を引き出すか」ではなく「人材にいかに投資するか」へと発想を転換しなければならない。それにより、社員たちはさらなる能力を発揮し、毎日働こうという気になる。また社員一人ひとりにあっては、それぞれがおのれの活力を奪い取る行動のコストを意識し、状況を問わず、責任をもって行動を変えていかなければならない。

 ワナーは活力を管理しようと、自分で儀式と行動習慣を決めた。すると生活が一変した。まず早寝を心がけ、睡眠の妨げとなっていた酒もやめた。その結果、朝はだいぶ疲れが取れた感じで起きられるようになり、運動の意欲も出てきて、ほぼ毎朝実行している。2カ月もしないうちに7キログラムも体重が減った。