効率志向から「学習志向」へ

 ほとんどの経営者は厳格な業務執行、つまり、商品を効率的かつ安定的に生産し、納期までにきちんと収める、あるいはサービスを効率的にタイミングよく提供することが、顧客満足と高業績をもたらす唯一最善の必勝法だと信じている。

 この前提に立てば、たとえ一瞬でも業務執行の手綱を緩めると、危険が待ち受けていることになる。しかし実際には、知識経済にあっては、完璧に業務を遂行しても成功が永続的に保証されるわけではない。ほとんどの分野に新たな知識が押し寄せ、これまでのやり方にこだわっていると、すぐに取り残されてしまう。

 1970年代初めにおいて、ゼネラルモーターズ(GM)は世界一の規模と収益性を誇っていた。GMはおのれの流儀を自負するあまり、中央集権的な管理と大量生産体制という自社ならではの能力にこだわり続けた。

 ところが、それから数十年間、GMは後退の一途をたどり、2007年には、387億ドルという記録的な損失を計上した。工業化時代の代表的企業の多分に漏れず、優れた業務を遂行し続けることの難しさを、GMもなかなか理解できなかったのである。

 なぜ難しいかというと、社員たちが勤勉に働くことに飽きてしまうからではなく、業務を効率化するという管理的なマインドセットによって、社員の学習能力とイノベーション能力が抑えられてしまうからだ。事を正しく処理することが重視されるため、成功し続けるうえで欠かせない実験と検証が排除されてしまう。

 調査したところ、業務執行には別のアプローチもあり、私はそれを「学習志向の業務執行」と呼んでおり、これは長期的な成功の基盤となる。ここで、工業化時代に誕生したもう一つの有力企業、ゼネラル・エレクトリック(GE)を思い出してほしい。

 80年代以降、GEはたえず自社の活動をみずから評価し、改善策を見つけ出し、学習を経営慣行の一つに位置づけてきた。その結果、風力発電から医療診断に至るまで、あらゆる分野で業務を革新し続け、2007年には225億ドルの利益を計上した。

 一見すると、学習志向の業務執行は、「効率志向の業務執行」と大変よく似ている。統制し、システムを重視し、細部について注意を払うという点も同じである。