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IT投資と企業業績に相関性はあるのか
グループウエアやシン・クライアントなど、ICT(情報通信技術)に積極投資することで、階層組織を超えたネットワーク・コラボレーションが実現し、よりイノベーションが生まれやすくなるという。
また、積極的なIT投資は、ビジネスプロセスを効率化し、個人と組織の生産性を高め、ひいては企業業績を押し上げるという。
内部統制が今年2008年4月1日以後に開始する事業年度から本格化し、それに伴うIT投資によって、財務報告の信頼性やコンプライアンス(法令遵守)のほか、業務の有効性と効率性が高まると期待されている。
これらについて問われて、「そのとおりである」と答えても正しいが、実は「そうとはいえない」と留保することも正しいといえる(ただし、ITの力そのものを否定するものではないことをお断りしておく)。
これまで一般的に、IT投資と生産性には相関性があるとされてきた。実際、国家や産業といったマクロ・レベルにおいては、一定のコンセンサスが存在している。また、企業というミクロ・レベルでも、そのような成果を実現している個別事例は多数報告されている。
ところが、「数十億円単位の金を投じてERPシステムを導入したが、どうも持て余し気味のようだ」「生産管理システムをリニューアルしたが、かえって効率が下がってしまった」「KPI(重要な業績評価指標)に注力するためにビジネス・インテリジェンス・ソフトを新たに追加したが、思うような成果が上がらない」「社内のデジタル・ネットワーク化を推し進めたが、社員の行動にあまり変化は見られない」など、IT投資が生産性の向上につながらないという事例を指摘する声も少なくない。
はたして、IT投資と企業業績に相関性はあるのだろうか。これまで、主にアメリカを中心にその実証研究がなされてきたが、そのアプローチは大きく3つに分けられ、それぞれそのフレームワークが異なる。そのため、IT投資と企業業績の相関性について議論するにしても、依って立つところが異なることから、議論同士が必ずしも噛み合わないことも起こりうることに注意が必要である。
(1)制度/プロセス・アプローチ
これは、一定の制度、たとえばITガバナンスやルールなどを整え、しかるべきプロセスに従えば、IT投資のリターンが向上するという考え方で、1970年代に唱えられた「実施理論」[注1]を源とする。言い換えれば、ITの導入(実施)にまつわる要件をきちんと整えれば、IT投資のリターンは担保されるという立場である。