製造業のサービス事業は想像以上に難しい

「製品のコモディティ化が始まったら、サービスによって顧客に付加価値を提供し、競争優位を確立する」

 メーカーはこのような考え方に傾きがちである。この戦略が奏功をすれば、目覚ましい利益が上がり、製品そのものよりもサービスのほうが大きな利益をもたらすという。

 ところが、サクセス・ストーリーが一つあれば、その陰には他山の石とすべき事例が少なくとも5つはある。メーカーがサービス事業から利益を上げるのは至難の業なのだ。一流といわれるメーカーですら、利益どころか、かえってつまずきかねない。

 我々が調査した某テクノロジー企業を例に挙げたい。この企業は、医療機器、IT、自動車用機器、輸送システムなどの分野で、グローバルに事業展開している。

 年商50億ユーロのIT事業部は、製品の設置や顧客への研修サービスなど、数は少ないながらも製品に関連したサービスを提供していた。

 そして2003年、コモディティ化の影響で、製品の純利益率が3、4%と低迷するなか、サービスの利益率はその2倍にも上ることに気づいた。そこで同事業部は、大口顧客向けのサービスを重点的に拡充することを決めた。上層部は「カスタマイズ・サービスの利益率は、遠からず15%に達するだろう」と皮算用した。

 ところが、この予測はみごとに外れ、同事業部の利益率は2005年にはマイナス10%超に落ち込んだ。この新規事業はとんでもないお荷物となり、2005年だけで2億6000万ユーロもの損失をもたらした。

 この赤字の原因はいくつもある。第1に、現場から離れた事務方が複雑なサービスを企画・開発するのは予想以上に難しかった。顧客の要望に応えるにはかなりのカスタマイゼーションが必要とされるため、一つの案件で経験や知識を積んでも、他の案件にはほとんど生かせなかった。