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顧客経験はビジネスの原点
最近、携帯電話を申し込んだ人ならば、繰越通話時間の費用と無料通話相手先の設定とを比較し、プッシュ・トゥ・トーク、ローミング、メッセージングなどの有料オプションについても検討するという悩みを経験したことだろう。また、キャッシュ・バックが受けられると聞いて、うっかりうなずき、住宅ローンの申込書と見まがうような細かい書類を埋めるはめになった人もいるだろう。
電話の自動応答システムというのもある。こちらは急いでいるのに、機械の声に従ってボタンを押し、ようやく人間の担当者にたどり着く。消費者はこの種の自動化システムにかなりうんざりしているらしく、ゲットヒューマン・ドットコム[注1]が主なB2Cサイト10カ所について「担当者に素早くたどり着く方法」を掲載したところ、ほかのサイトに関する情報も次々に寄せられ、数週間で400件に達したそうである。
機能過多、キャッシュ・バックの罠、人間による対応の削減等、どれも、事業活動の原点、つまり「顧客経験の質」が見失われている証拠である。
冒頭の例で、携帯電話会社がこれでもかと多くの機能をつける理由の一つは、他社のサービスと比較しにくいようにして、価格競争を避けるためである。第2の例では、条件の厳しいキャッシュ・バックを餌に購入を誘うためである。第3の例では、「24時間対応のセルフ・サービス」と体よくごまかしてはいるが、もちろん人件費を削るのが目的だ。
うまくやっているつもりでも、この手の対応に遭遇すると、顧客には失望が生じ、そのお金はどこか別のところに落ちることになる。
顧客経験は、企業が消費者に提供するあらゆる活動と関連している。それは、顧客サービスの質はもちろん、広告、包装、製品やサービスの機能、使いやすさ、信頼性にまで至る。
しかし、社内を見回して、自分の判断が顧客経験にどのように影響を及ぼすのか、常に念頭に置いている人は稀である。考えていたにしても、顧客経験とはいったい何か、見解はそれぞれ違っているだろう。また上司といえども、すべての部下の仕事に目を配ることはできない。
たとえば製造業の場合、企画開発部門は顧客経験のことなど営業部門に任せ切りである。ところが実際には、営業部門も機能や仕様を重視する。製造部門は、主に品質、納期、コストのことを考える。