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企業本位の戦略という甘い罠
顧客を満足させれば、その顧客はロイヤルティを感じ、その顧客ロイヤルティが高まると、企業の利益も増えるというマーケティングの定理がある。
にもかかわらず、契約で拘束し、料金を巻き上げ、契約書のただし書きを細かい文字で書くといった具合に顧客の不利益などおかまいなしで、自社の事業のことばかり考えて、顧客を怒らせている企業が多いのはなぜだろう。残念ながら、そのほうが儲かるからである。
情報が不足して、考えがまとまらない顧客は、往々にして購買の意思決定を誤る。企業は実のところ、そのような顧客はきわめて収益性が高いことに気づいている。
本稿で紹介するのは、戒めとすべき例である。そのような手口で、意図的に、しかも白々しく顧客を食い物にしようとする企業がある。しかし、さまざまな業界の数十名のビジネス・リーダーたちにインタビューしたところ、顧客の混乱から利を得ている企業のほとんどは、知らず知らずのうちにそのような罠にはまってしまっていることも判明した。
そのような企業は何年にもわたって顧客を食い物にしてきたが、企てによるものではない。事実、ほとんどが「一線を越えてしまった」という決定的な瞬間を意識していない。むしろ気がついたら、危険な斜面に足を踏み入れており、ますます反顧客的な戦略へと導かれてしまったといえる。
携帯電話サービス、銀行、クレジット・カードなどの業界を考えてみるとよい。現在これらの業界が、1分間の使用料、最低口座残高、貸越残高保護、信用限度額、支払期限などの規則を理解できない顧客、あるいはそれに従わない顧客から利益を上げていることは明らかである。
これらの業界の企業も最初は、ニーズも違えば価格感度も異なるさまざまな顧客セグメントに、何らかの価値を提供すべく、製品を設計し、価格戦略を立てていた。ところがいまや、これらの業界に限らず、多くの企業が、透明で顧客本位の戦略を、顧客を搾取する不透明で、企業本位の戦略へと変えてしまった。
このようなアプローチも、当面はうまくいくかもしれない。実際、明らかにこの戦略を採用している企業の多くが大儲けしている。しかし、顧客を食い物にしていると、間違いなく顧客たちは敵意を募らせていく。そして、いつ何時にか、悪評、訴訟、他社への鞍替えといったかたちで報復する。