マネジメントを変革せよ

 マネジメントは間違いなく、人類史上に燦然と輝く発明である。マネジメントの進歩、すなわち人々の努力を後押しする組織、業務プロセス、手法の進歩は、この100年以上にわたって経済発展に寄与してきた。

 ただし、ここで問題となるのは、マネジメント分野の画期的なブレークスルーは、ほとんどが何十年も前に起きたことである。ワーク・フロー設計、年次予算策定、ROI分析、プロジェクト・マネジメント、事業部制、ブランド・マネジメントほか、数々の貴重なツールの誕生は19世紀末ないしは20世紀初頭にさかのぼる。

 マネジメントの礎を築いたのは、ダニエル・マッカラム[注1]、フレデリック W. テイラー[注2]、ヘンリー・フォード[注3]ら、南北戦争が終結した1865年より以前に生まれた人々である。

 マネジメントは、典型的なS字カーブを描きながら進化してきた。しかし、20世紀初めに目覚ましい進化を遂げて以来、イノベーションの勢いは少しずつ衰え、近年ではきわめて低調である。マネジメントは内燃機関と同じく、すでに成熟の域に達しており、新しい時代に合わせて変革すべき時期にある。

 このような認識の下、2008年5月、学界や産業界のリーダーが集まり、マネジメントを再発見するための道標(ロード・マップ)を作成した(囲み「マネジメント・イノベーションの課題設定」を参照)。

マネジメント・イノベーションの課題設定

 マネジメント、組織体系、リーダーシップに関する側面のうち、繁栄を目指すうえで最も足かせになりそうなものは何だろうか。これからの時代にふさわしい企業を築くには、マネジメントの原則や経営慣行をどのように変革すればよいだろうか。

 これらは、35人の研究者や実務家が一堂に会し、マネジメントの未来をめぐって2日間にわたって討論した際に、取り上げたテーマである。このカンファレンスは、マネジメント・ラボがマッキンゼー・アンド・カンパニーの後援を得て開催したもので、経験豊富な研究者、新世代のマネジメント思想家、先進的な発想で知られるCEOやベンチャー・キャピタリストが参加した。

 話し合いは熱を帯び、時には激しい意見の対立もあった。ただし、全員は終始一貫して、最終目標を強く意識していた。それは「マネジメントを革新して21世紀にふさわしいものにするために大胆不敵な課題を設定する」というものだ。

 このテーマと格闘しながら、マネジメント専門家の多くは大志や熱意を抱けず、閉塞感にさいなまれていると感じていた。そこで、「ヒトゲノムの解読、AIDSの治療法の発見、地球温暖化の抑止にも引けを取らない、マネジメント分野の偉業は何だろうか」と自問した。

 カンファレンス終了後、この2日間の成果に基づいて、一部のメンバーが課題のリストをまとめた。一握りの項目だけに絞ることは考えず、参加者のさまざまな視点を網羅させた。そこには、実に鋭い視点が数多く盛り込まれている。

 重要なのは、カンファレンスそのものよりも、メンバーたちを突き動かした「マネジメント・イノベーションを目指す者すべてに勇気を与え、方向性を示し、ささやかながらも力添えをする」という使命である。

 このグループの直近の目的は、起死回生、言わば逆転大ホームランが期待できそうな課題を抽出し、マネジメント・イノベーションを目指す人たちの力をもれなく引き出すことだった。

 ちょうどこれに先立ち、全米工学アカデミー(NAE)が、21世紀における技術上の挑戦を14項目掲げていた。人間の脳のリバース・エンジニアリング、医療情報科学(ヘルス・インフォマティックス)の発展、炭素隔離技術の確立など、いずれ劣らぬ壮大な挑戦である。カンファレンスの参加者たちはこれに触発され、「経営者や経営学者も、高い目標を設定すべきだ」と気勢を上げた[注4]